はじめての恋の進め方

R 39

　ーー保科、今日なんで秋川先輩と出かけて、で、学校戻ってきてたんだ？
　22時を過ぎた頃、自室で宿題をしていたら内野からメッセージが届いた。
　わっ、内野見てたの？！
　ーーーちょっと頼まれごと　あと、忘れ物したから
　ーーなんで頼まれんの？　関係ないだろ、保科とあの先輩
　メッセージの文章にトゲがある、気がする。機嫌悪そうな感じ。
　なんで？

　ーーー僕も分かんないよ　たまたまじゃない？
　ーー意味分かんねーし　やばくね？　あの先輩
　ムッとした。
『やばくね？』ってなに？
　アプリを閉じてスマホを伏せた。返信なんかできない。
　宿題も一気に面倒くさくなってしまった。開いたままの教科書の上に腕を乗せて枕にする。
　あーあ

　またピロリンとメッセージの着信音が鳴った。
　次は何を言われるのかな
　さっきは返信なんかできないって思ったけど、言われっぱなしも癪(しゃく)に障(さわ)る。
　内野が秋川先輩を『あの先輩』って言うのもなんかやだ。
　なんであんな秋川先輩を目の敵にするんだろう、内野。
　ホームマッチで負けたから？　いやでもその前からだよね。
　まあいいや。とりあえず秋川先輩を悪く言うのはやめてもらおう。
　よし！と気合を入れて身体を起こし、スマホを表に返してホームボタンを押した。

　えっっ？！　えっ？　えっ？　えっ？
　あ、秋川先輩から……っっ
　ーー今日はどうもありがとう　テストも兼ねて
　というメッセージと、猫たちの画像。
　白いミルクと黒いココア。
「……かわいーー……」
　ミルクは青い目で、ココアは金色の目。

　あ、そうだっ　返事、返事しなきゃっっ
　なんて送ったらいい？
　先輩と連絡先を交換したことなんてなかったし、もちろんメッセージをもらうのも初めてだから、返信なんてしたことない。ましてや相手は好きな人……。
　ほんと、なんて送ったらいい？！

　誰にも訊けない。練習もない。しかも、間違えたらせっかくちょっと近くなった秋川先輩との距離が、また遠くなっちゃうかもしれない。
　好意は伝えたい。でも恋愛感情だとは知られてはいけない。
　難しいよっ　恋愛っっ

　ーーー写真ありがとうございます　すごく可愛いですね　今日お役に立てて良かったです
　これでいい？　変じゃない？　大丈夫？！
　分かんない。分かんないけど、あんまり遅いのも良くない気がする。

　心臓はまたバクバクいってて、息が上手く吸えなくてなんか苦しい。
　はぁはぁと荒く息を吐きながら、「えいっ」と思い切ってメッセージを送信した。
　……送っちゃった……
　あ、既読付いたっ
　ーーちゃんと送れて良かった　またお願いするね　
　わ　わ　わ

『また』

「……へへ……っ」
　うれしい
　ーーーはい
　パッと既読が付くと、待っててくれてるみたいな気持ちになった。
　うれしい　うれしい

　僕はスマホの画面を指でなぞり続けて、ニヤニヤしながら、いつまでも先輩のメッセージと写真を見ていた。