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 綺麗に微笑んで、秋川先輩が僕を見てる。  覚えて……くれてた……っ 「……あ……の」  のど、きゅーってなる  こえ、うまくでない 「うん?」  少し首を傾げて、僕を見つめる優しい瞳。 「……ほ、保科琳……です……っ」 「ホシナリンくん、ね。……あ、あった。1年4組だよ」  何度も何度も反芻(はんすう)したあの声が、僕の名前を紡いだ。  名前の横にチェック入れてるボールペンが小さく見える大きな手。  あの手が、あの日僕のプリントを拾ってくれた。 「はい。これを持って昇降口で自分の靴箱に靴を入れて、体育館に行ってください。矢印通り行けば大丈夫だからね」  自分の前に出されたプリントの束を受け取った。緊張しすぎて手が冷たくなって震えてしまう。  あし、うごかない 「保科、行くぞ」  内野にぐいと腕を引かれた。そして半ば引きずられるように昇降口に入っていく。 「保科、何組?」 「……4くみ……」  まだドキドキしてる。 「オレも4組。やったな、おんなじクラス」  内野が僕の肩に腕を回して顔を覗き込んでくる。    やばい  たぶん僕、今顔赤い 「あ、ほら内野、靴箱探さなきゃ。僕は下の方かな」  そう言いながら下を向いて内野から顔を逸らした。 「琳ちゃん、内野くんっ。あたしも4組ーっていうか置いてかないでっ」  眞美ちゃんが小走りで近付いてきて、僕の隣にとんって立ち止まった。 「えへへ。あたしも秋川先輩に名前チェックしてもらっちゃった」 「つか山田も4組ってどういうことだよ」 「知らないわよ、そんなこと」  内野が眞美ちゃんと喋ってる間に、2人にバレないように深呼吸して、できるだけ心臓を落ち着けた。まだ顔は熱いけど、何か言われたら入学式で緊張してるからって言っとこう。  靴箱の下から2段目に名前が貼られてるのを見つけて、上履きに履き替えた。秋川先輩の渡してくれたプリントをしっかり持って廊下を歩く。制服の内ポケットには、体験入学の時のプリントも入ってる。ずっと持ってるから、角がボロッとしてきちゃってるけど。  秋川先輩の言った通り、体育館までは矢印に従って迷わず来られた。  体育館の中には椅子がキレイに並べられていた。 「椅子に名前が貼ってありますので、ご自分の席に座ってください」  椅子は8つの固まりになってて、それぞれに『1組』『2組』という目印のポールが立っている。 『4組』で自分の席を見つけて座った。体験入学の時とおんなじ、今回も端っこの席だった。  早く来ちゃったから待ち時間が長い。スマホ見るわけにもいかないし。  高校合格して、やっと買ってもらったスマホはまだ全然使いこなせてなくて、この前どうにか壁紙を自分で撮ったネコの写真にしてみたところだ。  ……って、あっ。秋川先輩だっ。    僕のすぐそばを歩いていった。  後ろ姿でも分かる格好いいシルエット。
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