Takayuki   40

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Takayuki   40

 ーーー写真ありがとうございます すごく可愛いですね 今日お役に立てて良かったです  ……きたーーー……っ! 保科くんからのメッセージ!  やっぱ写真付けてよかったな。  既読が付くまで3分。返信が来るまで更に7分。それが早いのか遅いのかは分からないけれど。  ……ずっと画面を見続けてしまった。  スマホ内ストーカーだ。  自分でもちょっと強引すぎるだろ、って思いながら手に入れた保科くんの連絡先。先輩に「嫌です」なんて言えないだろうと見越したズルい提案だったと思う。事実、保科くんはちょっとビクッとして、それからやっと「はい」って言った。  それなりに好意を持ってくれてるからって、いきなりグイグイ踏み込んでいくのはよくないんだろうとは思ってる。でもあのチャンスを逃したら、次はいつか分からないから思い切って言ってみた。保科くんに頼めそうな用事がある時に、保科くんに会えるとは限らない。連絡先は絶対必要だ。  ……でも、どうなんだろう。あの「やります」は社交辞令とかじゃないと思ったけど。だけど、入学したばっかりで生徒副会長に声かけられて、断るとかできないだろうとも思う。  分からない。保科くんの気持ちが。  好意は持ってもらえてる、という勘に頼って進んでいくしかない。  だってほら、ホームマッチの時何度も目が合ったし、将大も保科くんがにこにこして俺を見てたって言ってたし……。  ーーちゃんと送れて良かった またお願いするね  大丈夫かな。怖くないよな?この文章。  心臓がドキドキしてる。手のひらにじんわりと汗が滲む。  押し付けがましくなく、でも次に繋げたい。  よし!と気合を入れて送信した。  あっ、すぐ既読が付いた。  保科くんもスマホ見てるのかな。  あ……っ  ーーーはい  今度はすぐに返信がきた。  うわーーー……っ  迷いなく『はい』って送ってくれた、んだよね?  このスピード感だとそう思っちゃうぞ?  いいの?保科くん。いいよね?保科くん。    ここまできたら諦めるとかできない。  躓いたのを思わず掴んだ保科くんの腕は、ブレザーごとなのにびっくりするぐらい細かった。  抱き上げたら、きっと軽いんだろうな。  そんなことをつい考えてしまう。  カリカリカリとドアをひっかく音がした。  どっちだ?  立ち上がり、ドアを開けてやる。白い身体がするりと部屋に入ってきた。そして俺を見上げてくる。大きな丸い目で。  保科くんみたいな。 「ミルク、お前可愛いってさ。よかったな」  屈んで白い頭を撫でる。  保科くんの髪は真っ黒で艶々だ。たぶん手触りはサラサラ。  ……ココアの頭も撫でようかな  ミルクの柔らかく温かい身体を抱き上げて腕の中に包んだ。  こんな風に抱いてみたい。保科くんを。  あの可愛らしい大きな目を、もっと間近で見てみたい。  そこで不意に保科くんの肩を抱く内野くんを思い出してしまってムッとした。  リビングに入って、ソファで寝ているココアの横に座って、ミルクを膝に乗せたままココアの小さな頭をそっと撫でる。 「あら貴之珍しい。リビングに戻ってくるなんて」  母がキッチンから出て来ながら言った。 「んー、ミルクが部屋に来たからココアの様子も見ようかと思って」 「ふーん」  ココアのしっとりと黒い頭をスッとなぞると、指の通った跡が僅かに残る。  人は、こんな風にはならないだろう。  人の頭なんか撫でたことないけど。  ミルクが膝から降りたから部屋に戻ることにした。  机の上に伏せてあったスマホを開いて、もう一度保科くんのメッセージを見た。  いつ会えるかな。  そういえば、保科くんバスケ部見に来るのかな。  あ、バスケ好きだから俺の方見てたのか?  ……でもそれなら将大も見る……? 将大のことも見てたのかな、俺が気付いてなかっただけで。  保科くんの好意のカテゴリーのどこに自分が入っているのか、すごく知りたくて知りたくない。  他人の評価をこんなに気にしたことなんかなかった。  分からないことが多すぎる。  恋をするのは大変だ。  でもやめたくない。  ふぅ、と息を吐いて、俺は静かにスマホを伏せた。  
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