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「今日はね、ポスターの貼り替えを手伝ってほしいんだ」  持ってきた紙袋を見せながら言うと、保科くんは「わ」って顔して、それから「はい」って応えてくれた。  かわいー 「掲示板が1階あたり2ヶ所だから、南北校舎合わせて16ヶ所、か。あと体育前とか食堂前とかもあるな。あ、すぐそこにもある。ちょっと時間かかっちゃうかもだけどいいかな?」 「だいじょぶですっ」  頑張ります!みたいな顔して保科くんが俺を見上げる。  あー! かわいいっ かわいい! 「ありがとう。じゃ、そこの掲示板から」 「はい」    昇降口の掲示板の前に2人で移動する。やっぱり保科くんはとことこって感じで付いてくる。めっちゃ可愛い。 「まず期限の切れてるやつを剥がして……」  G.Wにあったイベントのポスターなんかを剥がしていく。今時の、何も使わなくても貼れますよ、なんていう掲示板ではなくて、昔ながらの画鋲で貼るタイプだ。画鋲は指で摘みやすいとんがり帽みたいなやつ。 「ん? 取れない?」  保科くんが画鋲と戦ってる。 「あ、はい」 「錆びてるのとかあるからね。俺がやるよ」  そう言ったら、保科くんはポスターの前からささっと避けた。  まあ、うん。これは……なぁ。  当然の動きなのにちょっと凹む。    保科くんが抜けなかった画鋲はあっさり抜けた。  そっか。これが取れないのか。かわいいな。  剥がしたポスターは見分けやすいように表を外にして丸めて、紙袋に突っ込んだ。 「じゃあ、えっと……」  よく見たらポスター1本、1本にメモがくっついてる。『1年生』とか『学食前』とか『全部』とか。とりあえず『全部』のメモ付きのポスターを1枚引き抜いた。  献血ね、はいはい。  去年文化祭に献血カー来てたからやったなー、とか考えながらポスターを逆向きに巻いて伸ばす。  紙袋の中にはA4のポスターも入っている。 「保科くん、A4のやつで『全部』とか『1階』とかのメモのあるやつ、貼ってもらっていい?」 「はい」  ちょっと緊張した様子の保科くんが、紙袋を覗いてぺらんと1枚取り出した。俺は献血のポスターの上辺を画鋲で止める。 「秋川先輩」  わっ 「ん?」  名前を呼ばれたらドキドキしてしまう。 「こういう両面のは2枚並べて貼るんですか?」  保科くんが細い指で摘んだポスターの両面を見せてくれる。 「あ、うん。そうだね。枚数的に2枚ずつ全箇所は無理なら1フロアに一ヶ所、とかにしようか」 「はい」  可愛い返事。  真剣な顔して真っ直ぐ貼れてるか確認してるし。  なんかちょっと動きがギクシャクしてるのも全部全部……っ  なんて可愛いんだろう……!  って見過ぎたらやばい。
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