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「よしOK。じゃ次行こっか」 「はい」  保科くんを連れて学校の中を巡る。『自衛官募集』や『SDGs』『食品ロスをなくそう』『英語検定』などのポスターを貼っていく。 「秋川先輩っ、これ取れませんっ」 「ん、いいよ。俺がやるよ」  少しずつ慣れていく。お互いの存在に。  隣り合って作業をして、腕や手が触れて、とくん、と心臓が跳ねるのを保科くんに気付かれないように密かに深呼吸をした。  南校舎2階の、職員室や生徒会室のあるフロアは嫌な予感がするから後回しにすることにする。北校舎2階の3年生のフロアに足を踏み入れる時、保科くんの顔は強張(こわば)っていた。 「もうあんまり教室に残ってる先輩いなさそうだし大丈夫だよ」  ちょっと屈んで声をかけてみる。保科くんがチラリと俺を見た。 「俺もいるから、ね?」  なんて言ってみた。ちょっとは安心してくれるといいけど。  ……って、わっ  保科くんが、こくりと頷いた。俺を上目に見たまま。  すっごい可愛い……っ  やばい、なにこの可愛らしさ  またドキドキしながら並んで作業をした。保科くんはさっきまでより心なしか俺に近寄ってきてる。  かわい  教室の中からは笑い声や話し声がしていて、でも作業をしている間廊下を通る人はいなかった。3年生のフロアでの作業を終えて、次の掲示板に向かいながら、チラッと保科くんを見たらホッとした顔をしていた。  北校舎の階段をそのまま昇ると2年生のフロアなので、渡り廊下を渡って南校舎に入る。緊張する上級生のフロアに続けて行かなくてもいいだろうと思った。保科くんがちょっと不思議そうな顔をして俺を見上げた。  南校舎2階の特別教室のフロアはシンとしていた。今日はこの辺の教室を使う文化系の部活は活動日ではないようだ。  これなら少し…話ができる。 「……保科くん、写真…って邪魔になってない?」  返事はいつも「可愛いです」「ありがとうございます」だけど。 「あ、はい。ネコ好きなんで嬉しいです」  画鋲を外しながら、保科くんがにこっと笑う。  まぁ「邪魔です」とは言えないよな  保科くんの「嬉しいです」は何パーセント本当なんだろう。 『特別教室』のメモの付いた、ややキツめに巻かれているポスターを広げていく。けれど、しっかり丸まってしまっていて、すぐにシュルッと戻ってしまう。  厄介だな  上辺を掲示板の上端に合わせるけれど、くるんと丸まるポスターはとても貼りづらい。 「あ、僕押さえます……っ」  わっ  目の前に保科くんの細い手が伸びてきた。俺と、掲示板の間に保科くんが入ってきて、丸まってるポスターに指をかけてる。  なに、なにっ、近…っ  ドドドッと強く心臓が打って息が止まった。  
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