Rin     44

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Rin     44

 4枚の、猫の画像。  白いミルクと黒いココアの2匹が、寝転んだり寄り添ったりしてる。  連絡先を交換してから、1日おきに秋川先輩が送ってくれてる。短いメッセージと一緒に。  すっごい嬉しい。可愛いし。  今日きたのは、2匹が目を爛々(らんらん)とさせてキャットタワーから身を乗り出しかけてる画像。  ーーこの後2匹とも俺の肩に飛び乗った  っていうメッセージが付いてて、その情景がありありと思い描けた。  あの秋川先輩の広い肩に猫2匹……。  かわいカッコいい!  ーーー重そうだけど可愛いですね  ーー1匹5キロだからね 重かったよ  10キロを肩に……、重そうだなぁ。でも秋川先輩なら言うほど重いって思ってないんだろうなぁ。  ていうか、その2匹を肩に乗せてる秋川先輩の写真が欲しい。  ……なんてことはもちろん言えない。  僕が送った返信メッセージに送ってくれた秋川先輩のメッセージに、さらに返信してもいいのかも分からない。分からなくて、ぐずぐずしてる間に返信するには時間が経ってしまっていて、これまで返信に返信したのは一番最初の『はい』だけ。 『ですよね』とか送ればよかった。  せっかく構ってくれてるのに飽きられちゃう。そしたらメッセージ送ってもらえなくなっちゃうかも。そんなのやだ。  次は、明後日はもっと頑張る!  だからどうか明後日もメッセージ送ってください、秋川先輩。  お願い神様……っ 「最近琳ちゃんさ、放課後になるとソワソワしてるよね」 「え……っ?」  眞美ちゃんが、ぬっと覗き込んできてビクッとした。  放課後の教室、内野はもう部活に行ったからいない。僕はポケットに入れた手でスマホを握りしめて着信を待っている。 『手伝ってほしいことがあったら連絡させてもらうね』  あれ、ほんとだよね?   ほんとだから、連絡先交換したんだよね?  メッセージも写真もすっごい嬉しいけど、でも会いたい。  ちょっと前までは、遠目に見る推し活生活で満足してたのに、ホームマッチで話しかけてもらって、買い物の手伝いなんかさせてもらっちゃったりしたから、ちょっと欲張りになっちゃってる。  よくないなぁ、って思ってはいるんだけど……。  体育館も毎日覗きに行ってる。眞美ちゃんには言えなくて、眞美ちゃんが帰ってから1人で。でも人が多すぎて入れなくて、まだ見られていない。 「それに前より帰るのゆっくりになったよね、琳ちゃん」  ドキッとした。「なんで?」って訊かれたらどうしよう……っ 「あたしはー、そろそろ帰ろっかな。琳ちゃんはもちょっといるの?」  ちょっと首を傾げた眞美ちゃんが、にこっと笑って訊いた。 「あ、うん。もちょっと」  ……あっ  今スマホ、ブルッて……っ  すぐ見たい、でも……っ 「じゃ、先帰るね。琳ちゃんあんまり遅くなっちゃダメよ? 可愛いんだから」  眞美ちゃんはそんなことを言って、バイバイって手を振りながら僕に背を向ける。僕も手を振った。心臓はバクバクいってる。  もういい、よね?  ポケットの中で手が汗ばんでスマホもあったまっちゃってる。  眞美ちゃんが教室を出たのと同時にスマホを出して画面を見た。    ……あ  なーんだ、広告メールか……  膨らんでた気分がシュポンと萎んだ。  そんな上手くはいかないよねー。  先週買い物行って今週も、なんて。  木曜日は、バスケ部はお休み。  だから今日は秋川先輩は生徒会に行ってると思う。  そしたら呼んでもらえるんじゃないか、って……期待してた……。  スマホの画面が暗くなって、落ちた。  あーあ……って、  あ……っ!    
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