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 秋川先輩にドキドキしながら、時折聞こえてくる3年生たちの声にもドキドキしつつ作業をした。終わったらやっぱりホッとした。  でも流れ的に次は2年生のフロアなんだよね。  って思ってたら、秋川先輩は2年生のフロアへの階段を昇らずに、南校舎への渡り廊下に向けて進んだ。  なんで?  ……まいっか。秋川先輩のやりやすい順番なんだろうし。  渡り廊下を渡ってから階段を昇ったら、3階の特別教室のフロアだ。  誰もいないみたいで、秋川先輩と僕の足音だけが響いてる。 「……保科くん。写真…って、邪魔になってない?」  秋川先輩が画鋲を外しながらポツリと訊いた。 「あ、はい。ネコ好きなんで嬉しいです」  邪魔なんてとんでもない。なんなら毎日送ってほしい。  って言ってもいいのかな?  そう思って見上げたら、秋川先輩が丸まっちゃうポスターを貼りにくそうにしてた。 「あ、僕押さえます……っ」  そうだ、こんな時のためのお手伝い!  背伸びをして手を伸ばし、秋川先輩の持ってるポスターを下に向けてくるくると下ろしていく。そして巻き戻らないようにしっかり押さえた。……けど。  あれ? ちょっと待って、背中あったかい  か、壁ドンみたいになってるっっっ  僕、掲示板と秋川先輩の間に立ってるっ  ドドドドドッと心臓が急加速していく。  息、息の仕方分かんなくなるっ 「……もちょっと押さえててね、保科くん」  声……っ、耳元……っっ  身体中の血液がドクドクと駆け巡ってて、ポスターを押さえてる指先までドキドキしてる。  顔、どんどん熱くなってく。    僕が右手で押さえてるすぐそばを、秋川先輩が画鋲で留めた。  おっきい手 「反対側も留めるよ」 「あ、はい……っ」  咄嗟に右側によけた。 「あっ」 「……っと」  背中が、秋川先輩に当たってしまった。しかも割と勢いよく。  秋川先輩の右腕が、僕を受け止めてる。  ドキン ドキン ドキン ドキン 「……す、すいませ……っ」  秋川先輩が触れてるとこ、あったかい 「あ、うん、こっちこそ……。左によけると思って……」  ごめんね、って言いながら秋川先輩の右腕が僕から離れていった。  身体がスッと寒くなる。  そして秋川先輩は、左手でポスターの左端の角に画鋲を刺した。 「保科くん」 「は、はい……っ」  わ……っ  呼ばれて見上げたら、秋川先輩と目が合ってしまった。涼しげな目が、見開かれてからゆっくりと微笑んだ。  う……わぁぁ……っ 「ありがとね、助かった」  はい、とか、いいえ、とか、全然、とか、何か言わなきゃいけないんだと思う。  でも……  首を横に振るので精一杯……っ  キラキラ、キラキラ、柔らかい光の粉が降ってくる。 「どしたの? 保科くん」  秋川先輩がちょっと屈んで覗き込んでくる。 「え、あ……いえ……っ」  やばいよっ 格好いいよっ やばいよ……っ
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