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「そう? じゃ続きやろっか。あと何枚かな?」  スッと僕から離れた秋川先輩が、床に置いてある紙袋を覗いた。  ちょっとホッとして、でも残念で、僕も紙袋を覗いた。  ほんの少し、秋川先輩に近付いてみる。 「じゃ、俺これ貼るから、この小さめの保科くんお願い」 「はい」    手渡されたポスターを、掲示板の空いている所に真っ直ぐになるように慎重に貼りながら、隣で大きいポスターを貼っている秋川先輩をチラッと見た。  今度のはあんまり巻きぐせが付いてなくて重力に逆らわず下に伸びていってる。  ……手伝えない。  秋川先輩の長い指がポスターの上をスーッと辿って、プスッと画鋲を刺した。 「よし、ここはこれでお終い。次2年のフロアだけどもう大丈夫? 保科くん」 「あ、はい……」 『もう』?  あ、もしかして、さっき僕が3年生のとこでビビってたから?  続けて2年生のフロアは、って思ってここにしてくれたの? 「じゃ、行こっか」 「はい」  ……いやいや。それはちょっと自分に都合よく考えすぎ。  北校舎への渡り廊下を、秋川先輩の少し後ろを付いて歩く。  背高いなぁ。腰の位置も高くて脚が長い。 「あーー……」 「ど、どうしたんですか?」  秋川先輩の歩くスピードが落ちてきた。 「2年、まだ結構残ってるっぽい。ほら、声」 「あ……」  さっきの3年生のフロアに入った時よりもっとザワザワと人の気配がしてる。 「大丈夫? 保科くん。どっかで待ってる?」  足を止めた秋川先輩が、心配気な顔をして訊いた。 「あ、いえ、だいじょぶです。手伝いますっ」  上級生のフロアはちょっと怖い、けど、でも秋川先輩と一緒にいたい。せっかく呼んでくれたのに離れたくない。  唇を噛んで秋川先輩を見上げたら、先輩はちょっと驚いた顔をして、それからまた優しくニコッて笑った。 「ん、分かった。じゃ行こう」  ごく軽く、背中にぽんと触れられた。そこからふわっと熱が広がって、心臓をギュッと包む。 「はい」って言うべきだって分かってるけど、胸が苦しくて言えなくて頷いた。秋川先輩も、うんうんて頷いてた。 「あー、秋川くん、今日は1人じゃないんだー」  教室の中からひょいっと顔が出てきてビクッとしてしまった。 「いっつも私たちの手伝いはいらないって言うのにー」 「ねー」  え、そうなの?  廊下の声を聞きつけて、あちこちの教室から女の子がわらわらと出てきて、掲示板に着く頃には周り中女の子でいっぱいになってた。 「あ、この子! 秋川くんがホームマッチの時声かけてた子だー」 「えー? 私女の子だと思ってた。ジャージだったから」 「てゆっか可愛いーねー。まつ毛くるんとしてる。バッサバサだし」 「うらやましー」  キレイにメイクした2年生の女子の先輩たちがきゃあきゃあ言ってて、どんな顔をしてればいいか分からない。  見られてたのか。そうだよね、ホームマッチの時いっぱい人いたもんね。見られてたよね。  チラッと見たら、秋川先輩が剥がしたポスターをササッと丸めてるところだった。なんかさっきまでより動作が速い。  そうだ、仕事仕事っ
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