Takayuki   50

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Takayuki   50

 どうやって告白するか、なんて考えてもいなかった。  正直、まだ告白する覚悟はできていない。  でももう、腹を(くく)るしかない。 「……あのさ、保科くん。繰り返しになっちゃうけど……」  やっとの思いで保科くんに声をかけて、連絡先をもらって、やっと、やっとここまできたけど、でも。  保科くんの誤解を解いてあげないと。なんにも悪くないのに、今にも泣き出しそうな顔をしてる。 「保科くんはなんにも悪くない。俺が……」  ああ、でもどっちがいいんだろう。俺が好きだと告白することで、この上に更に嫌悪の表情も重なってしまうんだろうか。  だとしても、ありもしない不始末で落ち込むよりはいいだろう。  この距離で保科くんを見られるのも、これで最後になるんだろうな。  俺を見つめる、仔猫みたいに可愛らしい大きな瞳。 「俺が、保科くんに会いたくて呼んだんだ。手伝いなんて口実だよ」  一言喋るたび、保科くんが遠くなる。 「俺はただ、……君に会いたかった」  保科くんの驚いた顔。丸い目が更に丸くなってる。  細い手がブレザーの胸をギュッと掴んだ。 「あい……たい……?」  男にしては高めの、少し掠れた声が小さめの唇からこぼれ落ちた。  この可愛い保科くんが、この後眉を(ひそ)めて俺を睨みつけるんだろう。  それが、近くで見る最後の保科くんの顔になる。  きっとその顔も可愛いんだろうけど、でも……。  胸を突き破りそうなほどに心臓が強く打ち、鳩尾(みぞおち)がギリギリと痛む。 「そう、会いたかった。近くで顔が見たかった。話しがしたかった。俺は……」  息が吸えない。頭が割れそうにぐわんぐわんと脈打っていて、視界がガクガクと揺れている。  さようなら保科くん  短い間だったけどありがとう  すごく幸せだった 「……俺は、保科くんのことが好きなんだ……」  言って……しまった……  保科くんが茫然とした表情で俺を見ている。  あと何秒見られるかな。  もうすぐ保科くんは足元の鞄を掴んで去っていくだろう。きっと走って。  その様子を見るのはやっぱり辛くて視線を落とした。 「……あの……」  ……え? 「も…もっかい……言ってください……」 「え……?」  弾かれたように顔を上げると保科くんと目が合った。真っ赤に潤んだ大きな目が、(うかが)うように俺を見ている。 「よ、よく聞こえなかっ……」 「好きだ」  保科くんの見開かれた目が、キラリと光った。 「好きだ。好きだよ、俺、保科くんのことが」  その目を見ながらもう一度告白した。手のひらに、背中に汗が滲む。  保科くんが真っ赤になった顔をくしゃっと歪めた。ぎゅっとつぶった両目から大粒の涙がポロポロと流れ落ちていく。 「ほ、保科く……っ」 「僕も……っ」  パッと開いた大きな目が俺を捕えた。  僕も……?!  透明の滴が白桃みたいな頬を伝って顎から落ちる。噛んで赤くなった唇が震えている。 「あき……秋川先輩が…すき…です……」 「え……」  え?! え?! え?!
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