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 見つめ合ったまま、言葉が出ない。  重かった心臓の拍動が、強さは同じなのに軽やかになっていく。  俺を見つめる保科くんの目から、またポロリと涙がこぼれた。  その涙を、恐る恐る指で拭う。保科くんの長く濃い濡れたまつ毛が伏せられて、頬に影が落ちた。触れた肌は熱い。  そしてまたゆっくりとまつ毛が上がって、綺麗な瞳が俺を見つめた。  涙で潤んだ目がキラキラ輝いて、天使だとか妖精だとか、そういうファンタジーな存在に見えてしまう。  可愛い  すっごい可愛い  こんな可愛い子、他に見たことない 「保科くん、あの……」  絶対手放さない  保科くんがきゅるんとした目で俺を見て、掠れた声で「はい」と応えてくれた。  ドキドキと鳴る心臓が、どんどん大きく膨らんでいくように感じる。 「俺と……、付き合ってくれませんか……?」  顔がめちゃくちゃ熱くて、視界が滲んでくる。声は掠れて震えてしまう。  カッコ悪……。でもこれが精一杯だ。  保科くんが俺を見て、うんて頷いた。  うん、うんて頷き続ける。その度にサラサラの髪が揺れてキラキラ光る。  ぎゅっとつぶった目からまた涙がこぼれた。  ……かわいい……っ  この可愛い子が俺の…… 「……じゃあ保科くん、今から俺の恋人だよ? いい?」  指の背で濡れた頬を撫でながら訊く。保科くんが顔を上げてまっすぐに俺を見た。 「……はい……っ」  うわあぁ……っっ!  可愛い可愛いっっ!! 「ありがとう保科くん! うわ、どうしよ俺。ちょっ、すっげ嬉しい…っ」  ドキドキ、ドキドキと胸が跳ねて、身体ごと浮き上がりそうだ。  ほわっと頬をピンク色に染めた保科くんの眉間の皺が取れて、口元が柔らかくほころんでいる。 「かわいいねぇ…、保科くん……」  小さい顔を覗き込みながら言ったら、保科くんがちょっと困り顔になってまた唇を噛んだ。 「あ、の……、先輩それ、恥ずかし…です」 「ん? あ、ごめん。あんまり保科くんが可愛くて……」  ああもう! 困ってる顔も可愛いなぁ! 「せんぱ……、それ何回言うんですか……っ」  あ、ほっぺ、ぷぅってなった。かわいーー……っ 「いやだって言わないの無理。可愛い、可愛い、かわいい、保科くん」  俺やばい。自分でも分かる。 「あ、秋川先輩っ、ポスター、ポスター貼りしなきゃ……っ」  保科くんが俺の横に置いてある紙袋を指差しながら言った。  慌ててる顔、可愛い。 「うん、そうだった。途中だったね、ポスター。ごめん、俺浮かれてる」  顔が勝手に笑うのを止められない。立ち上がりながら見た保科くんも笑ってる。  笑顔かわいいっ!
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