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 横に並んで、ゆっくりと階段を降りて、1年生のフロアの掲示板に向かった。1年生は「ホームルームが終わったら帰りなさい」を守っているようでシンとしている。  さっきまで少し後ろを付いてくる感じだった保科くんが、俺の横を歩いてくれるのが嬉しくて、ついチラチラと見下ろしていたら保科くんも俺を見上げて目が合った。  上目遣い、可愛い  掲示板に着いて作業を始める。 「ね、保科くん。下押さえてもらえる?」 「あ、はい……っ」  少し巻きぐせの付いてる大判のポスター。でもほんとのところ、上を留めてしまえば1人で貼れる。  あ  保科くん気付いた?  ポスターの下の方を押さえたまま、身体を(ひね)って俺を見上げてる。 「……秋川先輩、さっきは1人で……」 「ん? そうだっけ?」  わざとらしくそう応えながら、縦の辺の真ん中辺りにも一つ、画鋲を打つ。  まずは右。保科くんは俺の手を見ている。 「左も留めるからちょっと右に寄ってくれる?」  右手は画鋲を留めた形のまま、わざと耳元で話しかけると、保科くんがビクッとして右に動いた。  左側にも画鋲を打って、そのまま保科くんを見下ろす。  俺の  俺と掲示板に挟まれた保科くんは、真っ赤な顔をして俺を見上げてる。  あー、可愛い やばい  ポスターを押さえてくれてる保科くんの細い指先がピンク色に染まっている。その手に少し触れながら右端下に画鋲を打った。  保科くんは俺と掲示板の間で困っている。耳も真っ赤になってて可愛い。  困ってんの、めっちゃ可愛いな  でもあんまり困らせちゃいけないな  左端下にも画鋲を打って、両手を掲示板から離した。半歩ほど後ろに下がる。  保科くんが上目遣いで俺を見上げて唇を噛んだ。それから唇をむにっと歪めて、ポスターの入っている紙袋の方にくるりと向くと、ストンとしゃがみこんで中を覗いた。 「あとここに貼るの、何枚?」  と屈んで訊いた。保科くんがA4のチラシと小さめのポスターの筒を引っ張り出す。 「これ、表裏で2枚と、この1枚です」 「じゃ、俺ポスター貼るね」 「はい」  楽しいなぁ
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