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 もう1枚の掲示板も同じように(じゃ)れあいながら張り替えをした。  渡り廊下を渡った先、南校舎の4階には音楽室や美術室があって、吹奏楽部や美術部が活動している。ここはちゃんとやらないと。 「あー、秋川くんだ。モデルやってよ、モデル」  早速美術部の部長に声をかけられた。保科くんがビクッとした。 「すいません。仕事中なんで」 「あ、なになに、可愛い子連れてんじゃん。ね、その子と一緒に、クロッキーでいいから。1分、いや2分、ね?!」 「ほんとすいません」    どうにか振り切って、掲示板で作業を始めたら、美術部員数人がスケッチブックを持ってやってきた。 「作業してていいから。勝手に描くから。この前2人で歩いてるの見た時から描きたくて。すごいバランスいいから、2人」  そんなことを言いながら本当に描き始めた。 「後ろ姿だけにしてくださいね」  って、ん? 『2人で歩いてるの見た時から』?  あれ? さっき2年のとこでも似たようなこと……。 『ホームマッチの時、声かけてた子だ』だ。  そういえば会長にも言われた。『買い物』と『連絡先』  うわうわ……っ、俺やばいな。全然周り見えてなかった。  ほんと騒がれたの俺のせいだ。  結局美術部員はもう一つの掲示板にも付いてきて、俺たちの後ろ姿を何枚も描いて美術室に戻っていった。 「あの……、ほんとごめんね、保科くん」 「え?」  階段を並んでゆっくり降りて、後回しにした2階に向かう。 「やっぱさっき騒がれたの俺のせいだったし、あと、これから2階行くけどたぶん生徒会の先輩たちが見に来る」 「え? な、なんでですか?」  びっくり目の保科くんが見上げてくる。 「んー、俺が迂闊(うかつ)だったから、かな。ほんとごめん。先に謝っとく」    幸か不幸か、昔から注目されることが多かった。だから人に見られることには慣れているし、もうあまり気にもしなくなっていた。それが良くなかった。  それに俺、保科くんを見かけたら保科くんのことしか見えてなかったし。 「……わかりました」  そう応えた保科くんの唇がアヒルになっててすっごい可愛い。  南校舎2階には、職員室や会議室、そして生徒会室がある。  まずは会議室の掲示板で作業をして、それから職員室と生徒会室の間にある掲示板に向かった。  これまでとはまた違う感じで胸がドキドキと跳ねてくる。  うわっ  生徒会室の戸がスススッと開いていくのが見えた。  ひょこっと笹岡会長が顔を出し、にっと笑った。 「お疲れ様、秋川くん。あとその掲示板でお終いな感じ?」 「……はい、です、ね」  笹岡会長の後ろに大沢先輩と渡部先輩も顔を覗かせている。  無駄だろうとは思いながら、保科くんを3人の視線から守るべく背中に庇った。  3人が揃ってニヤリと笑う。  こわ……っ
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