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「秋川くんっ、お手伝いしてくれてるそちらの1年生、紹介して?」 「え、あー……」  そう、ですよね。そうきますよね。  ちらっと見下ろしたら、保科くんが少し不安そうな顔をして俺を見上げていた。 「いいかな?」  まあ、嫌とは言えないって分かってるけど。 「……はい」  俺を上目に見たまま、軽く頷きながら保科くんが言った。  かわい……  誰にも見せたくない  ふぅ、と息をついて少し横にずれた。先輩たちが「早く早く」って急かしてる。 「えっと……。先週の買い物も手伝ってもらった1年4組の保科琳くんです」  右手で指し示しながら紹介すると、3人の目がギラッと光った。  ……やばい  保科くんはぴょこっと頭を下げて「1年4組の保科です」と、少し上擦った声で言った。 「……か…っわいーわねぇっっっ! ていうか、この子あの子でしょ、体験入学の時の」  えっ? 「そうそう、プリントの子」  えぇっっ?!  ザザザッと寄ってきた3人が俺たちを囲んだ。 「そう! この横顔! 女の子が学ラン着てるって思ったのよ」  なんで見てるんですか先輩っっ! つか、なんで覚えてんの?! 「やだぁ、可愛い可愛い! 秋川くんナイス!」 「近くで見るとより一層可愛いわねぇ。よろしくねー、ホシナくん」    先輩たちがきゃあきゃあ騒ぐから、保科くんが目を丸くして困ってる。  すっごい可愛い 「あ、秋川くんが見惚れてるー。そうよねー、体験入学の時もずーっと見てたもんねー、私の話聞かずに」 「えっ」  笹岡会長がニヤニヤ笑いながら見上げてくる。背中がゾワッと冷えてドキドキと心臓が胸を叩く。  ふふんと笑った笹岡会長が、保科くんを見て、また「可愛いわねぇ」って言って「じゃ、ポスターお願いねー」と生徒会室へ戻っていった。他の2人も同じように保科くんに可愛いって言いながら、笹岡会長に続いて戻っていった。  見られてるし、覚えられてるし、こわっ  でもまあそうか、覚えてるか、あの人たちなら。  ふぅ、ともう一度息をついて保科くんを見下ろすと、唇を噛んで俺を見上げてて、目が合うとサッと逸らした。そしてまた見上げてくる。  なにその動き、可愛いな 「ごめんね、ほんとなんか……」 「いえ」  ふるふるっと横に振った保科くんの首が細い。
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