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T 55
最後の掲示板のポスターを貼り終わった頃、見計らったかのように生徒会室の戸が開いた。
「あ、終わったねー。おけおけ」
渡部先輩がにこにこしながら出てくる。そして俺と保科くんの腕を取って、後ろ向きで生徒会室に向けて歩き始めた。
「え、あの、渡部先輩?」
渡部先輩は、うふふふふって笑っている。保科くんは困惑した様子で俺と渡部先輩を見た。
渡部先輩に手を引かれて生徒会室に入ると、笹岡会長が俺たちを見てにっこりと笑った。
「2人ともお疲れ様でした。学校中歩いて大変だったでしょ。ところで保科くん、今日は部活はなかったの?」
笹岡会長が優しげな表情で保科くんに話しかけた。
……ん? この顔、俺が副会長職の立候補打診された時に似てる気が……。
「あ、あの、僕帰宅部なんで……」
緊張した声で保科くんが応えた。
「あ、そうなのね。じゃあこれからもお手伝いお願いできるかしら?」
え?
「え、あ、はい……っ」
少し口角を上げて、保科くんはさっきより大きな声で返事をした。
「やだ、かわいー。なんか仔猫っぽいよね、保科くんて。ねぇ秋川くん」
「え、あ、はぁ……」
会長、笑顔が怖いです。
「そしたらね、基本は木曜日の放課後、秋川くんのいる時にお願いするわね」
わっ
保科くんが、ぱぁって輝くように笑った。
か、かわいーーー……っっ
「はいっ、がんばりますっ」
うわうわうわ……っ
可愛い可愛い可愛いっっ
「あ、あのね、保科くん。毎日、毎日来てもいいのよ? 始まりから20分くらいは秋川くんも来るし」
大沢先輩が目を潤ませながら保科くんを見て言う。
「そうそう。ていうか来て? ここで座っててくれるだけでいいから」
渡部先輩までそんなことを言い出す。
あ
「先輩方、あの、保科くん困ってるんで……」
保科くんが大きな目をきょろきょろさせて、そして俺を見上げた。
あーもう可愛いな
「うんうん、そうね、困ってるわね。困ってる顔もかわいーわねぇ」
ねぇ、って笹岡会長が俺を見上げてくる。
「そうだ保科くん。いつでもいいからマグカップ持ってきて。それか今度また100円ショップに買い出しに行く時に買ってきてもいいし。ちょっと生徒会費からは出せないんだけど」
「みんなでね、お茶するの。卒業生が差し入れしてくれたり、誰かが持ってきたりしてね。今ある紅茶は、藤堂くんのお母さんがうっかりダブって買っちゃったからってくれた、黄色い箱のやつ。保科くん、紅茶大丈夫?」
「は、はい大丈夫です」
「じゃ、お茶にしましょー。今日は保科くんは秋川くんのカップね。で、秋川くんは藤堂くんの借りて」
え
いや、カップ、全然いいんだけど、ていうかこの流れは……
……バレ…てる……な、全部
3人の先輩たちが、にこにこしながら保科くんを椅子に座らせている。
「秋川くん、隣にいてあげて。心細いでしょ、保科くんが」
「あ、はい……」
「私お湯沸かしてくるー」
6つの机を向かい合わせに、島のように並べてある真ん中に座らされてる保科くんの隣に座ったら、保科くんが、驚きと困惑と混乱の入り混じったような瞳を俺に向けてきた。
そりゃあそうだろう、俺も混乱してる。
見には来るだろうと思ってたけど、こんなに巻き込んでくるとは思ってなかった。
カップの載ったトレイを持って来た大沢先輩が、俺の方に視線を流してきた。
……面白がられてる……気がする……
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