Rin     56

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Rin     56

 展開が早すぎて付いていけない。  なんで僕、生徒会室で座ってんの?  隣に座った秋川先輩を見たら、先輩も困り顔で苦笑していた。 「はい、保科くん。ミルクとお砂糖もあるからね」 「あ、ありがとうございます』  目の前にトン、とブルーグレーのカップが置かれた。紅茶の香りがフワッと漂う。  秋川先輩のカップ……  もう一回秋川先輩をチラッと見たら、先輩は「ん?」って感じで僕を見た。  カッコい…… 「保科くんは紅茶はストレート派?」 「え、あ…入れます。お砂糖とミルク……」 「一つずつでいいかな?」 「はい……っ」  目の前に置いてくれてるトレイの上のスティックシュガーとポーションミルクを秋川先輩が取ってくれた。  手がおっきいから、どっちもすごく小さく見えちゃう。 「あら優し、秋川くん」  背の高い先輩が、ふふって笑いながら言って、秋川先輩の前にもカップを置いた。  まだ信じられない。  秋川先輩が僕のこと好き……なんて……  ドキドキ、ドキドキ、ドキドキと心臓の音が身体中に響いてた。 「……オレハ、ホシナクンノコトガスキナンダ」  え? 頭の中もドキドキしてて、ちゃんと日本語に聞こえない。 「……俺ハ、保科クンノコトガ好キナンダ」  さっき聞いた秋川先輩の声の音が、じんわりと形を見せてくる。 「……俺は、保科くんのことが好きなんだ」  え? え? え?!  え?!  これ、変換合ってる?! 自分の都合のいいように誤変換されたんじゃない?!   ドキドキして、頭がぐるぐるして、涙まで滲んできて目の前がぼやける。    さっきは「会いたかった」って聞こえた。  今度は……「好き」……?  ほんと? ほんとに?! 「……あの……、も…もっかい…言ってください……」  こめかみがドクドクいってて、自分の声もよく聞こえない。  俯いてた秋川先輩が、バッと顔を上げて目が合った。 「よ、よく聞こえなか……っ」 「好きだ」  わっ! 「好きだ。好きだよ、俺、保科くんのことが」  好き……って言ってくれてる……  好きって……、好き……  一目惚れだった。  会いたくて、会いたくて、一生懸命勉強した。  覚えててもらえて嬉しかった。  声かけてもらって、連絡先交換して、天にも昇る気分だった。  僕を真剣な目で見ている秋川先輩の格好いい顔が、ゆらゆらと歪んでしまってよく見えなくなってくる。 「僕も……っ」    言わなきゃ  ずっと思ってたこと    でも涙がボタボタとこぼれて喉がきゅってなる。  口、勝手にぐにぐに歪む。    でも言わなきゃ 「あき……秋川先輩が…すき…です……っ」  しゃくり上げる寸前の涙声で、やっとの思いで言った。  険しかった秋川先輩の顔が、驚いた表情に変わって、それから柔らかくほどけていった。
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