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R 57
もっとはっきり見たいのに、全然涙が止まってくれない。
「俺と……、付き合ってくれませんか……?」
今度はちゃんと聞こえた。
好きって何回も言ってもらったから、頭の中できちんと変換できた。
やっぱり涙止まんない。
「……じゃあ保科くん。今から俺の恋人だよ? いい?」
……恋人……っ
なるっ なるなるっ 絶対なる……っ
「……はい……っ」
秋川先輩の恋人……っ
「かわいいねぇ…保科くん……」
すっごい格好いい秋川先輩が、嬉しそうに僕を見ながら「可愛い」なんて言う。
恥ずかしい
眞美ちゃんたち女友達や、お母さんなんかに散々言われて慣れてる言葉なのに、秋川先輩に言われるのは全然違う。
すごい恥ずかしくて、ちょっと嬉しくて、やっぱり恥ずかしい
恥ずかしい恥ずかしい
なのに秋川先輩は何回も言う。
可愛い可愛いって……
ほんと信じらんない
秋川先輩を疑ってるとか、そういうわけじゃないけど、実は僕は途中で階段から落ちて頭を打って、すごい現実っぽい異世界にでも来ちゃったんじゃないか、とか思ってしまう。
だって秋川先輩が、掲示板に腕を突いて僕を閉じ込めたりする。
ウソみたい、こんなの。
でも、もし夢だったら覚めないで。異世界に飛んじゃってるならこのままいさせてください。
そんなことを考えているうちに、なんか生徒会の人たちに囲まれて、そして今、秋川先輩と並んでお茶を飲もうとしている。
「保科くん、ほんとに毎週手伝ってくれるの? 大丈夫?」
秋川先輩が心配気な、でも嬉しそうに見える笑顔で訊いた。
「は、はい。だいじょぶ、です。……あのっ」
「ん?」
「……木曜だけ、…ですか?」
さっき他の先輩たちは、毎日来てもいいって言ってた。
「あ……んー…、そうだね。どうしよっか。そりゃ……」
秋川先輩は考え込むように視線を上げて、それからちょっと僕の方に身体を寄せてボソッと言った。
「毎日会えたら、俺は嬉しいけど」
声、甘い。それに……笑顔が眩しくて……
「来てもいい…ですか……?」
ドキドキがまた大きくなってくる。
「いいよ。先輩方も『来て』って言ってたしね。あ、そうだ保科くん。ここに来て、そのままバスケ部見に来る?」
え、え……っ
「あ、は、はい……っ」
なにその素敵スケジュール……!
放課後ずーっと秋川先輩と一緒!
「ん? なになに? 2人で何のお話?」
「保科くん、またお目々キラキラになってるじゃなーい。かーわーいーいー」
「ね、ね、保科くん、どうする? 木曜日だけにする? 他の日も来ちゃう?」
会長たち3人がカップを持ってやって来て、僕たちの向かい側に座った。
「あ、えっとですね、来てくれるそうです。ね? 保科くん」
秋川先輩が僕の方をチラッと見ながら言った。僕は、うんうんて頷いた。
「えー! ほんと?! うれしー。可愛い子はどんだけ見てもいいからね」
「何手伝ってもらっちゃおっかなー。あ、あれよね、木曜以外は秋川くんがいる間って感じよね?」
「あ、はい、そんな感じで。そうだ、保科くん。無理な日は俺に連絡して? いい…かな?」
会長たちに向けて僕の代わりに応えてくれた秋川先輩が、もう一回僕の方を見て訊いたから、またうん、て頷いた。
「あーもぉ、可愛い! 了解! じゃ、そんな感じで」
「よろしくお願いします」ってみんなで頭を下げて、顔を見合わせて笑ってしまった。だって会長たちが笑うんだもん。
でもほんと、信じらんない!
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