R      57

1/1
前へ
/148ページ
次へ

R      57

 もっとはっきり見たいのに、全然涙が止まってくれない。 「俺と……、付き合ってくれませんか……?」  今度はちゃんと聞こえた。  好きって何回も言ってもらったから、頭の中できちんと変換できた。  やっぱり涙止まんない。 「……じゃあ保科くん。今から俺の恋人だよ? いい?」  ……恋人……っ  なるっ なるなるっ 絶対なる……っ 「……はい……っ」  秋川先輩の恋人……っ 「かわいいねぇ…保科くん……」  すっごい格好いい秋川先輩が、嬉しそうに僕を見ながら「可愛い」なんて言う。  恥ずかしい  眞美ちゃんたち女友達や、お母さんなんかに散々言われて慣れてる言葉なのに、秋川先輩に言われるのは全然違う。  すごい恥ずかしくて、ちょっと嬉しくて、やっぱり恥ずかしい  恥ずかしい恥ずかしい  なのに秋川先輩は何回も言う。  可愛い可愛いって……  ほんと信じらんない  秋川先輩を疑ってるとか、そういうわけじゃないけど、実は僕は途中で階段から落ちて頭を打って、すごい現実っぽい異世界にでも来ちゃったんじゃないか、とか思ってしまう。  だって秋川先輩が、掲示板に腕を突いて僕を閉じ込めたりする。  ウソみたい、こんなの。  でも、もし夢だったら覚めないで。異世界に飛んじゃってるならこのままいさせてください。  そんなことを考えているうちに、なんか生徒会の人たちに囲まれて、そして今、秋川先輩と並んでお茶を飲もうとしている。 「保科くん、ほんとに毎週手伝ってくれるの? 大丈夫?」  秋川先輩が心配気な、でも嬉しそうに見える笑顔で訊いた。 「は、はい。だいじょぶ、です。……あのっ」 「ん?」 「……木曜だけ、…ですか?」  さっき他の先輩たちは、毎日来てもいいって言ってた。 「あ……んー…、そうだね。どうしよっか。そりゃ……」  秋川先輩は考え込むように視線を上げて、それからちょっと僕の方に身体を寄せてボソッと言った。 「毎日会えたら、俺は嬉しいけど」  声、甘い。それに……笑顔が眩しくて…… 「来てもいい…ですか……?」  ドキドキがまた大きくなってくる。 「いいよ。先輩方も『来て』って言ってたしね。あ、そうだ保科くん。ここに来て、そのままバスケ部見に来る?」  え、え……っ 「あ、は、はい……っ」  なにその素敵スケジュール……!  放課後ずーっと秋川先輩と一緒! 「ん? なになに? 2人で何のお話?」 「保科くん、またお目々キラキラになってるじゃなーい。かーわーいーいー」 「ね、ね、保科くん、どうする? 木曜日だけにする? 他の日も来ちゃう?」  会長たち3人がカップを持ってやって来て、僕たちの向かい側に座った。 「あ、えっとですね、来てくれるそうです。ね? 保科くん」  秋川先輩が僕の方をチラッと見ながら言った。僕は、うんうんて頷いた。 「えー! ほんと?! うれしー。可愛い子はどんだけ見てもいいからね」 「何手伝ってもらっちゃおっかなー。あ、あれよね、木曜以外は秋川くんがいる間って感じよね?」 「あ、はい、そんな感じで。そうだ、保科くん。無理な日は俺に連絡して? いい…かな?」  会長たちに向けて僕の代わりに応えてくれた秋川先輩が、もう一回僕の方を見て訊いたから、またうん、て頷いた。 「あーもぉ、可愛い! 了解! じゃ、そんな感じで」 「よろしくお願いします」ってみんなで頭を下げて、顔を見合わせて笑ってしまった。だって会長たちが笑うんだもん。  でもほんと、信じらんない!
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!

303人が本棚に入れています
本棚に追加