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「じゃ、今日はこれでー。お疲れ様でした」 「お疲れ様ー。あ、秋川くん保科くんバイバーイ」  そう言って手を振ってくれたのは渡部先輩。で、3人の中で一番背が高いのが副会長の大沢先輩。会長は笹岡先輩。よし、覚えた。 「…なんか、一気に色んなことがあって疲れたんじゃない? 大丈夫? 保科くん」  廊下を並んで歩いている秋川先輩が、少し背を屈めて心配気な顔で僕の方を見た。 「え、と、あ…だいじょぶ、です……っ」  どうしよう格好いい 「うわ、どうしよう。かわいい」  秋川先輩がボソッと言った。思わず目を見合わせて、数秒見つめ合ってしまって足が止まった。 「あのさ、保科くん。もちょっと時間、ある? 門限とかあったりする?」  秋川先輩が真剣な顔で訊いてくる。そんなじっと見つめられたら、どんどん体温が上がってきちゃう。 「門限…は、はっきりとは決まってないんで、、もちょっとなら……」  ちょっとと言わず、ずっと一緒にいたい。 「じゃ、ラッシュに入っちゃうから保科くん家の最寄り駅まで行こうか。下りだよね?」 「あ、はい。3駅目です」  なんで分かるの? 「あの中学ならその辺だよね。うちはそこから2駅行って乗り換えだから」  あ、そっか。秋川先輩、僕の中学知ってるんだ。体験入学で会ってるもんね。 「ファストフードあったよね? 確か」 「あ、はい。あります」  なんで?って、あ、そうか。練習試合とかで来たことあったのかも。 「じゃ、行こっか」と秋川先輩が僕の背中にポンと軽く触れた。 「ね?」  うわぁ…… 「はいっ」   秋川先輩と一緒に帰るんだ! えっ、すごいすごいっっ  なにこれなにこれっっ  わーい!! 「はは、保科くんがすごい嬉しそうな顔してくれて嬉しい」  にこっと笑った秋川先輩にそう言われて、ちょっと恥ずかしくて、でも僕も嬉しくて、ついえへへって笑ってしまった。 「……か……っっ」  僕を見た秋川先輩が、片手で自分の口を塞いで目を逸らした。そしてまた、チラッと僕を見る。  はぁー…ってため息をつきながら、秋川先輩は口を覆っていた手を下ろした。 「すごいね、保科くん。なんでそんな可愛いの」 「!」  秋川先輩こそ、まっすぐに見つめながらなんでそんなセリフ言えるんですか?! 「もう、ほんとほっぺが桃。かーわいいなぁ」  長い人差し指で頬をつん、と撫でられて、ちょっとビクッとしてしまった。  でも、もちろん嫌なわけじゃないから、唇を噛んで秋川先輩を上目に見つめた。  秋川先輩は僕を見下ろして、ふふって笑った。  靴箱で一旦別れて、大急ぎで靴を履き替えた。ローファーを突っかけたまま2年生の靴箱の方に向かって歩きながら履いて、踵がスポッと入ったところで秋川先輩と再会した。  目を見合わせて、同時に笑う。 「行こっか」 「はいっ」
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