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「あー、秋川くんが可愛い子連れてるー」  昇降口を出たら、早速声をかけられてしまった。2年生か3年生の女子の先輩たち。 「生徒会の雑用を手伝ってもらうことになったんです。それで……」  チラッと見た先輩たちのクラスバッジは3年生のものだった。 「へー、そんなんできたんだー。いいね、楽しそー」    こんな感じのことが駅までに何回もあった。  やっぱり秋川先輩は人気者だ。 「…なんかすごい、ですね」  駅のホームの隅っこで電車を待ちながら秋川先輩を見上げた。  秋川先輩はくすっと笑って僕を見下ろした。 「注目の半分は俺、半分は保科くんだよ? みんな保科くんのこと可愛いって言うね」 「え……?」 「ていうかごめんね? 生徒会とかやってるとみんな声かけやすいのか、すごい話しかけられるし見られるし……。保科くん、見られるのやだよね」  秋川先輩が申し訳なさそうに苦笑して言う。  電車到着のアナウンスが流れて走行音が近付いてきた。 「……やだけど……やじゃないです……」  だってそれは、秋川先輩といるから、だし。 「ほんとに?」  少し屈んで、僕を覗き込むようにしながら秋川先輩が微笑んだ。 「じゃあ、これからもずっと、俺と一緒にいてくれる?」  柔らかく低い声で囁かれて、耳から背骨にかけてぞくんとした。  顔、熱くなってきちゃう  唇を噛み締めて、秋川先輩を上目に見上げてこくりと頷いて応えた。  僕こそずっとずっと先輩と一緒にいたい。  頷いた僕を見て秋川先輩も、うんうんて頷いた。  すごい…綺麗…… 「電車来たよ、乗ろっか」  秋川先輩が僕の背中に軽く触れた。  内野や眞美ちゃんもよく「行くよ」とか言いながら、僕の肩に手を回したり腕を引いたりする。でもそれについて、何かを思ったことはない。  こんな、触れられたところがじんわり熱く感じるのなんて秋川先輩だけ……。  秋川先輩の広い背中に付いて電車に乗った。やや混み始めた車内の、座席の端のポールの所に立つように誘導される。先輩は僕のすぐ横に立って、吊り革の下がってるポールに手をかけた。そして僕を見下ろす。  どうしよう、格好いい  こんな格好いい秋川先輩が……僕の恋人……?  ガタンと電車が揺れて、秋川先輩がサッと僕の肩を支えてくれた。  おっきい手……  やっぱ秋川先輩ぐらい格好よかったら、こういうことにも慣れてるんだなぁ。  ……僕は何人目、なんだろう……  僕の家の最寄駅を告げるアナウンスが流れた。秋川先輩が、スッと僕の方に顔を寄せてくる。ドキッとしちゃう。 「次、だよね?」  そう訊かれて、ドキドキしながら頷いた。先輩が、ふって笑う。  先に降車した秋川先輩が僕を振り返った。各停しか停まらない小さい駅だから改札は一つしかないけど、どんどん行ってしまったりせずに待っててくれてなんか嬉しい。  何人目でも……いっか  今は僕が恋人……なんだし……  ……今は
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