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「りーんちゃん、おっはよー」 「わっ」  朝の駅前、突然後ろから腕を組まれてびっくりした。 「お、おはよ、眞美ちゃんっ」 「うふふふふー、琳ちゃん聞いたよー? 昨日そこで秋川先輩とデートしてたでしょ」 「え?!」  眞美ちゃんがファストフード店を指差して、にこにこしながら僕を見ている。 「え、あ、え…っと……」  どうしようっ どうしたらいい?!    ドドドドッて心臓が強く打って、スッと手足が冷えてくる。 「あ、ごめんごめん琳ちゃん。だいじょぶだから」  眞美ちゃんが細い手で僕の頬を撫でた。 「あのね、あたしが聞いたのは、『駅前のファストフードで保科くんと秋川先輩が仲良く喋ってたよ』って感じ。……でも」  眞美ちゃんが意味ありげに笑って、僕を覗き込む。 「琳ちゃん、秋川先輩のこと好きでしょ?」 「……っ」  ぶわっと体温が上がって、手のひらに汗が滲む。 「それに、絶対秋川先輩も琳ちゃんのこと好きだよね」 「!」  眞美ちゃん、なんでそんな……っ 「琳ちゃんは昨日秋川先輩と2人で話しててどう思った?」 「ど、どうって……」  ドキドキして、足が止まる。眞美ちゃんが僕の腕を引いて歩いてる。 「秋川先輩、楽しそうにしてた?」  駅の改札を通って階段を昇りながら、眞美ちゃんがコソコソと訊いた。  頭ぐるぐるしてる。  秋川先輩、秋川先輩は……、にこにこしてて……  僕はぎこちなく、うんと頷いた。    眞美ちゃんがなんかすごい嬉しそうに、うん、うんて頷いた。  眞美ちゃんこそ、どう思ってるんだろう。  駅の中も電車も朝のラッシュで混み混みで、だからもう眞美ちゃんと話はできなくて、僕は横に立ってる眞美ちゃんをチラチラ見ては目が合ってビクッとして、眞美ちゃんはそんな僕をおかしそうに見ていた。  学校の最寄駅で電車を降りた。いつものように改札に向かって歩く、……けど、なんか…… 「ちょっと視線多いね、やっぱ」  眞美ちゃんが、あははって笑いながら言った。 「秋川先輩カッコよくて目立つし、琳ちゃんも可愛いからなぁ」  しょーがないよねーって言って眞美ちゃんが僕を見る。 「あ、あのね眞美ちゃん。昨日は秋川先輩に頼まれてポスターの貼り替えの手伝いをしてね、それで……」 「あー、その流れでって感じ?」  僕が、うんて頷いたら、眞美ちゃんも、うんうんて頷いた。 「でもさ、琳ちゃん」  眞美ちゃんが僕にスッと寄ってきてボソッと言う。 「ただの後輩を、わざわざ最寄駅まで送ったりしないよね?」 「!」  また、どん!と胸が鳴った。眞美ちゃんが、ふふって笑う。 「秋川先輩ってさ、琳ちゃんのことしか見えてないよね」 「えっ」 「そっか、琳ちゃんは琳ちゃんで秋川先輩しか見えてないもんね」  眞美ちゃんが僕の手を引いて歩きながら、あははーって笑って言った。 「すっごいお似合いのカップルだよねー。よかったね、琳ちゃん」 「眞美ちゃん……」  なんか、全部バレてる……けど……  眞美ちゃんはにこにこ笑ってる。 『お似合いのカップル』 「……いい、のかな……」 「ん? 逆になにがダメなの? 琳ちゃん」  僕の腕をくいっと引いて、眞美ちゃんが覗き込んでくる。 「だって……」 「好き合ってる2人が付き合うのは普通のことだよ?琳ちゃん」  眞美ちゃんが強い目で僕を見るから、思わず息を飲んだ。 「ていうか……、普通のこと、にしなきゃいけないと思うの、あたしは。だから、いいのかな、なんて思わなくていいの。ね?」  ゆっくり歩きながら、僕にだけ聞こえるように声を潜めて眞美ちゃんが言う。 「琳ちゃん、秋川先輩とお付き合い始まったの?」  こそっと訊かれて、うんと頷く。眞美ちゃんがまた、にこぉっと笑った。 「そっかそっかぁ。好きな人なんていないよって言ってた琳ちゃんがねぇ」  先越されちゃったなーって言いながら、なんか眞美ちゃんはしみじみしてる。  いつの間にか着いていた学校のグラウンドから、サッカー部や陸上部の朝練の声が聞こえてきていた。
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