Takayuki   62

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Takayuki   62

 神様、ありがとうございます!  帰宅途中にいつもの神社に行って、帰ってからまたランニングの途中で手を合わせた。  感謝してもしきれない。  もうずっと心臓は普段より強く打っていて、身体が熱くてふわふわしている。  全然帰りたくなんてなかったけれど、あまり遅くまで引き留めてはいけないだろうと思って、「そろそろ帰ろうか」と言った時の保科くんは恐ろしく可愛らしかった。 「……あ、…えっと……、あと5分……、だめ…ですか?」  う、わ……っ  上目遣いのお願いはやばい! 「うん、いいよ。保科くんが大丈夫なら」  これに「ダメだよ」と言える余裕は俺にはない。  できることなら、ずっとずっと保科くんを見ていたい。  見るだけじゃなくて、本当は保科くんに触れたいし、なんなら家に連れて帰りたいぐらいだ。  自分がこんなにがっついた人間だなんて知らなかった。  あと5分、なんて体感的には5秒くらいで、名残惜しいとか、後ろ髪を引かれるとか、そういうのが全部襲いかかってくる感覚になりながら、やっと保科くんに背を向けた。    夜になって、今までも1日おきに保科くんにメッセージを送っていた時間にスマホを開いた。  その時間になるまでが物凄く長くて、そわそわして、そわそわして落ち着かなかった。 「貴之、なんかいつもよりテキパキしてるわね。まあいつもシャキシャキしてるけど」  夕食後のキッチンで、母がちょっと不思議そうな顔でそう言って笑った。  俺は内心ドキドキしながら、 「別に? 普通だよ?」  とか言って、ココアの黒く丸い頭を撫でた。ミルクが自分も撫でろと言うように足に擦り寄ってくる。  どうしても、ココアの方を多く撫でてしまう。保科くんと同じ黒い頭。  ……撫でて、みたいなぁ。あの艶々の黒い髪。  頭を動かすたびに、キラキラ、サラサラと髪が揺れる。  可愛いんだよなぁ……、保科くん。 「貴之、学校で何かいいことでもあった?」 「えっ?」 「すっごい幸せそうに笑ってるから」  そう言われて、思わず母の顔を凝視してしまった。母が「ん?」と首を傾げた。 「……あ、え…っと……、まあちょっと……。あ、俺風呂入ってくる……っ」  思わず逃げ出して、その方が怪しかったと後で思った。  やっといつもの時間。  ドキドキするのはこれまでと同じだけれど、なんか違う、気恥ずかしいような、甘酸っぱい気持ちになる。  ーーこんばんは 今日遅くて怒られなかった?  メッセージと一緒に、今まで通り2匹の写真も送った。  わっ、ソッコーで既読……っ  待ってて……くれたんだ、保科くん……  ーーーこんばんは 大丈夫です ちょっと遅かったねって言われただけでした 今日の写真も可愛いですね  今までならここで終わり、だけど……。  ーー保科くん、宿題とか出てるの?  もう少し、続けてもいいよね?  ーーーはい 今やってました  ーーあ、ごめん 邪魔したね  俺も教科書とか開いてるけど、開いてるだけで全然文字は追えてない。  ーーーじ  ん?  ーーーじゃまじゃないです  はは、慌ててる。かわいー。  ーーじゃあ、勉強しながら時々メッセージ送ったりしようか  って提案しながらも、俺そんなことできるのか?と疑問も湧く。  ーーーはい  この流れですぐに返信するのも変だから、とりあえず教科書を読もうとしてみるけれど、やっぱり目が文字を上滑りしてしまう。  駄目だぁ、俺  頭ん中保科くんでいっぱいだ
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