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 いつもと同じはずなのに、妙に長い午後の授業とホームルームがやっと終わって、カバンを肩にかけたところで内野が来た。 「保科は生徒会室?」 「あ、うん……」  ふーん、みたいに僕を見下ろす。その向こうから眞美ちゃんも来た。とりあえず足を出入口へ進める。ちょっと早足になっちゃう。  だって早く秋川先輩に会いたい。  眞美ちゃんがくすっと笑ったのが聞こえた。 「じゃあ、あたしは今日は芽依ちゃんとサッカー部見てから帰ろっかなー」  出入口の所でバイバイと眞美ちゃんが手を振った。僕も手を振り返して廊下に出た。内野も僕と一緒に歩いている。  昼休みほど、内野の眉間の皺は深くない。  並んで階段を降りていく。踊り場を曲がると3階が見えた。  あ……っ、秋川せんぱ……っ 「保科くん、あ、内野くんも。お疲れー」  にこっと笑った秋川先輩が僕たちを見上げている。 「お、おつかれさまです……っ」  ここで待っててくれるなんて思ってなかった。  内野は秋川先輩に軽く頭を下げたけど、目はずっと睨むみたいに先輩を見てた。 「じゃな、保科」 「あ、うん。バイバイ、内野」  そして内野はダダダッと階段を降りていった。秋川先輩とその背中を見送った。 「行こっか、保科くん」  微笑む秋川先輩が優しい声で呼びかけてくれる。  しあわせ 「はいっ」 「わ……っ」  先輩が切れ長の目を見開いた。それからふわっと笑う。  かっこいーー……っっ  生徒会室に着いたら、ちょうど笹岡会長が鍵を開けているところだった。 「あらー、お揃いで。今日はねー、藤堂くんに紹介するわね」  そう言いながら戸を開けて入っていく。秋川先輩に「どうぞ」って促されて僕も中に入った。  少しすると藤堂先輩がザザッと入ってきて、「お、プリントの子じゃん」って言われた。みんな覚えてるし、あのこと……。  それから生徒会室の前に置いてある投書箱の中身の確認をした。 「会長、『学校でウサギを飼ってほしいです』だそうですけど」 「うん、無理かなー。母校の小学校で見せてもらってーって感じね」 「はい」  秋川先輩が会長の返事を聞いて、投書の紙の右上にバツ印を付けて、『未』と書かれた箱に入れた。 「ここに入れておいてね、後でホームページに載せるんだ。見たことある? 生徒会の投書のところ」 「あ、はい。見ました」  秋川先輩とほんの少しでも繋がりたくて、『生徒会』というものには全部目を通した。その中の投書のページには、自販機の飲み物のリクエストとか、校則の確認への返答が載っていた。 「もっと重たい内容、例えば何々部の3年生が1年生に暴力を、とかそういうのは、ここには載せないで別口で処理するんだけどね。まあそういうのはあんまりないかな」 「割と平和だからね、うちの高校」  ふふふって渡部先輩が笑った。
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