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「あ、部活組はそろそろ時間ー。保科くんはもしかしてバスケ部見に行くの?」  大沢先輩が「ん?」って顔して僕を見て、それから秋川先輩を見た。 「え…あ…はい」  なんで分かったのかな。 「そっかそっかぁ。体育館いっぱいだからね、潰されないように気を付けてね」    女子の先輩方に見送られて、秋川先輩と藤堂先輩と生徒会室を出た。  2人とも背が高いから一歩の幅が広い。僕は小走り一歩手前ぐらいな感じになってる。 「あ……っ、藤堂先輩、お疲れ様でした」  秋川先輩がスピードを落としながら言った。並んで歩いていた2人が前後に離れていく。 「ん? ああ、お疲れ。秋川、保科」  下がっていく秋川先輩を目で追いながら藤堂先輩が言った。 「お疲れ様でした……っ」  藤堂先輩は軽く手を振って、そのままのスピードで歩いて行った。    ゆっくりになってきた秋川先輩が僕を見下ろす。 「ごめんね、速かったね」 「いえ……、そんな……」 「あ、そうだ保科くん。部活ね、18時半過ぎるから、最後までは見ずに帰るんだよ?」  声も口調も優しいけど、はっきりと諭すように言われた。 「一応、遅くなるって母に言ってきました……」  上目に秋川先輩をじっと見ながら告げた。  母には生徒会の手伝いと部活の見学、と言ってある。ちゃんと。  まさか同性の先輩と付き合ってるとは思いもしないだろうけど。 「うん。でもね、遅いとラッシュがキツくなっちゃうし、心配だから。ね?」  真剣な顔で秋川先輩が僕を見てる。  先輩の言ってることはちゃんと分かってる。  でも、どうしても唇が歪んでしまって、不満気な顔になっちゃってると思う。 「……はい」 「ん、いい子」  わ……っ  キラキラの笑顔の秋川先輩が、大きな手で僕の頭をサラリと撫でた。  ドキドキドキドキドキドキドキドキ  心臓、きゅうってなっちゃう。  唇を噛んで秋川先輩を見上げたら、うんうんて頷いてくれた。 「俺着替えて来なきゃいけないんだけど……あれ? 岡林?」  体育館前まで来たら岡林先輩がいて、両手を小さく胸の前で振りながら僕たちの方に歩いてきた。 「そーたくんがね、秋川くんが保科くん連れて来るから一緒にいてやりなって。体育館すごいもんね」  あははって笑った岡林先輩が僕の横に立った。  そっか、岡林先輩は橘先輩の彼女さんだから、僕たちのこと知ってるんだ。 「ありがと、岡林。保科くんが17時半までにはここ出るように気にしてもらっていい?」 「ん? うん、おっけー。じゃ、今日は保科くんと帰るからって、そーたくんに言っといて」  岡林先輩は親指を立てて秋川先輩に笑いかけてる。 「了解。じゃあね、保科くん。送ってあげられなくてごめんね」  少し眉を歪めて、秋川先輩が申し訳なさそうに言った。僕はただ首を横に振った。   部室棟と呼ばれる建物の方に、大股で歩いて行く秋川先輩の均整のとれた後ろ姿を見送る。 「秋川くんはねー、部活居残りしてるから遅いんだよね、帰るの。ほら、生徒会出る分スタートが遅いでしょ?」  こっちだよって僕の腕を引きながら岡林先輩が言う。 「朝練も1番に来てるらしいし。バスケ大好きなんだよねー。そーたくんもだけど。だからどうしてもバスケ優先になっちゃうこともあるけど、それはしょーがないのかなって私は思ってる」    キャットウォークを指差して、「はしご登るよ」って言われたから、僕が先に登ることにした。登った先は女の子でいっぱいで、でも登ってきた岡林先輩は慣れた様子で僕の手を引いて歩を進めていく。ゴールのバッグボードがすぐそこに見える位置で女の子が手を振ってて、岡林先輩が手を振り返した。 「理沙ぁ! やっと来たーっていうか、その子秋川くんが連れてた子じゃん」  ちょっと派手な感じの女の子が、岡林先輩に話しかけながら僕を見た。 「そー、かわいーでしょ? 保科くんていうの。いい所で見せたげて、本気の秋川くん」 「ホームマッチも結構本気だったけど、やっぱ部活の時がね、すごいよね」 「そうそう、カッコいい」 「あんま言うと拗ねるから言わないけど、ね」 「ねー」  誰が?って思ってたら、岡林先輩が「この子、部長の坂井先輩の彼女なの」と教えてくれた。
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