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 入学して改めて思ったんだけど、高校って小中学と比べて校舎がめちゃくちゃ広い。  広いし、思った以上に他の学年と会わない。  会わないんだけど……。 「あ、ほら見て」  トイレの帰りに廊下を歩いていたら、女の子が窓の外を指差した。  他の子が「なになに?」って覗く。 「秋川先輩いる! 体育みたい。カッコいいよねーっ」  わ わ 見る 見る  さりげなく窓辺に寄って、下を覗く。  いた……っ 秋川先輩!  長袖のジャージに、下はハーフパンツ。  他の人とおんなじ服着てるのに、なんでだろ、全然違う。  すっごい格好いい……っ  ありがたいことに、会えなくても2日に1回くらいは姿を見られる。  女の子たちのおかげで。  見つけるのめっちゃ早いし、見つけたらすぐに他の子に「いたいた!」って知らせるから、そのきゃあきゃあの方を見て視線を追えば、高確率で秋川先輩を見られる。まあ、他の人の時もあるんだけど。  やっぱここ来てよかった。  あ  キャーって、女の子たちが盛り上がった。  秋川先輩こっち見たっ  思わず顔を引っ込める。 「秋川せんぱーい!」 「体育頑張ってくださーい!」  女の子たちは窓から落っこちそうな勢いで下を覗いて手を振ってる。  いいなーー……  僕も、もうちょっと見たかったな。  声はかけなくていいから。  左手を額にかざして上を見上げた秋川先輩、すっごい格好よかった。  次はいつ見られるかな。  今週の朝礼は生徒会長が喋ってた。副会長はもう1人いるから、秋川先輩は再来週かな。  芸能人の推し活してるみたいな気分だ。一方通行だし、ほんとぴったり。  手が届くことはない。ただ見てるだけ。それでもドキドキする。 「おーい、保科。休み時間終わっちまうぞー」  呼ばれて前を向いたら、内野が教室の出入口から顔を覗かせていた。 「あ、うん」  ちょっとスピードを上げて教室に向かった。内野の後ろから眞美ちゃんも顔を出した。 「琳ちゃん遅いからどうしたのかと思っちゃった、ってアレ、なに?」  眞美ちゃんが窓から下を覗いている女の子たちを見て言った。 「あ、えっと……秋川先輩が……」 「いるの?」 「いたみたい」  みたい、も何も僕も覗いて見たんだけど。  でもやっぱり言いづらい。 「いいなー、あたしも見たかったー、ん?」  眞美ちゃんが僕をじっと見た。 「なに?」 「あ、ううん。なんでもない」  えへへって笑って、眞美ちゃんは僕と腕を組んだ。  休み時間の終わりのチャイムが、キンコーンと鳴り始めていた。
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