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 岡林先輩の隣に立ってコートを見下ろしていたら、青い部活用Tシャツに着替えた秋川先輩が入ってきた。  あ、上見たっ 「秋川くん、あんま目良くないんだよねー」  岡林先輩が手を振りながら言う。  へー、そうなんだ  僕も小さく手を振った。  隅の方でストレッチをした秋川先輩が、練習にスッと入っていった。  すごい。ホームマッチの時と全部違う。  走るスピード、パスの強さや速さも、それから、  ドリブルかっこいーー……っっっ  柵を掴んで下を覗いて、意味もなく足をバタバタさせてしまう。  なんかじっとしてられない。    だってだって!   秋川先輩がめちゃくちゃ格好いいっっっ!!  バンッと受け取ったボールをドリブルしながら、秋川先輩がこっちに向かって走ってくる。ボールのダンダンいう音とバッシュの擦れるキュッていう高い音が体育館に響いた。  う、わあぁ……っっ!  秋川先輩が僕の方に跳んでくるっ!  長い腕がボールをゴールに導いた。  あ、あ……っ、笑……った……っっ 「ははっ、秋川くん嬉しそーな顔しちゃって」  隣で岡林先輩が笑いながら言った。 「あんな顔しなかったよねー」 「ほんとね」  岡林先輩と、部長さんの彼女さんだっていう先輩が、くすくす笑いながら下を見ている。  コートの中を走り回っている秋川先輩を見ているうちに、あっという間に17時半が近付いてきた。 「秋川くんと約束だから帰ろっか、保科くん」 「……はい」  ますます混んでるキャットウォークを、岡林先輩が僕の手を引いて歩いていく。はしごを降りて振り返ったら、秋川先輩がこっちに向かって走って来ていた。    頬を汗が流れている。 「保科くん、気を付けてね」  秋川先輩はにこっと笑って僕にそう言うと、岡林先輩に「ありがとな」って言った。僕は「はい」って頷いて応えて、岡林先輩は「バイバイ」って手を振った。秋川先輩がゆっくりと背を向ける。  行かないで  こぼれそうになった言葉を、唇を噛み締めて飲み込んだ。 「保科くん、帰ろっか」 「はい」  岡林先輩に促されて体育館を後にした。 「カッコよかったねー、みんな」 「あ……はいっ」  秋川先輩しか見てなかったけど。 「秋川くんしか見てなかったでしょ、保科くん」 「……っっ」  にーっと笑った岡林先輩が僕を覗き込んできた。頬が熱くなってくる。  顔、赤くなってる。絶対。  昇降口を出て、まだまだ明るい道を岡林先輩と2人で駅に向かって歩いていく。 「もっと見たかったんじゃない?」  岡林先輩がチラッと僕を見る。僕はほんの少し頷いた。 「だってまだ明るいしねー。でもラッシュ入っちゃうか。だから早く帰りなって言ったんでしょ? 秋川くん」 「はい……」  岡林先輩が僕を見て、ふふって笑った。 「去年1年間同じクラスにいても見なかったような表情、今年になっていっぱい見てる。秋川くんてイケメンだし、優しくて大人気でしょ? 私も好きだった」  え?!
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