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 秋川先輩にふさわしいってなんだろう。  眞美ちゃんは『お似合いのカップル』って言ってくれたけど。  お似合いとふさわしいはイコールでいいの?  わかんない  机の上でスマホがブルッて震えた。  秋川先輩がいつもメッセージを送ってくれる時刻。  木曜日の夜寝る前に、ポップアップには内容が出ないように設定した。  秋川先輩からのメッセージを、誰かに見られたくなかったから。  先輩が送ってくれたメッセージは僕だけのものだもん  ーーこんばんは ラッシュに入る前に帰れたかな?  優しいメッセージと、ミルクとココアの可愛い写真。  ーーーこんばんは はい すごく混む前に帰れました 帰りに地域猫のプリンに会いました  撫でてる僕の手も一緒に写っちゃってるけど、プリンが1番可愛く撮れてる写真を秋川先輩に送った。  ーーよかった プリン可愛いね 触らせてくれる子なんだね  ーーープリンの気分次第なんですけど  ーーそっかそっか 猫はねー、そうだよね ところで保科くん、今電話ってできる?  でんわ……っ  ーーーはい  でんわっ、声、きける……っ  すぐに着信音が鳴り始めて、ソッコーでアイコンを押した。 『もしもし』  うわ……っ 「……も、もしもし……っ」  ドドドドッて心臓が鳴る。 『電話、初めてだね』  声、声っ、すごい……っっ 「はい……っ」  電話、すごい……っ。声が耳にぶわって入ってくる。  体温が上がって、手のひらに背中に汗が滲む。 『帰りに岡林と何か話した?』  優しくて柔らかい、秋川先輩の声。 「あ…、えっと……。秋川先輩のことアイドルだって言ってました」 『なんだそれ』  苦笑いしてるんだろうな、って声が聞こえてきた。 「……実は、僕も推し活だって思って先輩のこと見てました」 『え?』  へへって思わず渇いた笑いが漏れた。電話でよかった。だってたぶん僕、変な顔してる。 『でもさ、保科くん』  秋川先輩の声が僕の鼓膜を優しく揺らす。 『俺がアイドルなら、保科くんだってアイドルだよ? 生徒会の先輩たちもみんな保科くんのこと可愛いって言ってたでしょ?』 「え……?」  僕もアイドル? 『結構みんな見てるよ、保科くんのこと。女子だけじゃなくて男子もね』 「えっっ?!」  ふふって笑った秋川先輩の声が耳元で響いた。 『ね、保科くん。日曜日って予定ある?』 「え…あ、ない、です」 『じゃあさ、うち来ない? 保科くんと2人でゆっくり話したい。それに、猫たちも紹介したいし……。どうかな?』 「え、え、行、きます……っっ」    秋川先輩の家……っっ?!
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