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Takayuki 73
「ん? 校門のとこに内野くんがいるぞ、貴之」
「え?」
土曜の朝、部活のために将大と学校に向かっていた。
「サッカー部も土曜が活動日だもんな。つか険しい顔してこっち見てんなー」
視力2.0の将大が苦笑いしながらそう言った。門に近付くにつれ、俺にも内野くんの表情が分かってくる。確かに苦い顔をして俺たちの方を見つめていた。
「……おはようございます。秋川先輩、橘先輩」
「おはよう、内野くん」
「はよ。どうした? 朝から眉間に皺寄せて」
将大に言われて、内野くんの眉間の皺はますます深くなってしまった。気の強さを表す鋭い視線で俺を見上げてくる。
「バスケ部も午前練ですよね。秋川先輩、終わったら時間もらえませんか?」
声も、硬くて低い。
「……いいよ? じゃあここで待ち合わせしようか」
「はい。じゃあ後で」
スッと頭を下げて、もう一度俺を睨むように見つめてから、内野くんはくるりと踵を返して走って行った。
「なんだあれ。決闘の申し込みか?」
半笑いの声で将大が言った。
「……みたいなもの、な気がするけど……」
内野くんが走り去った方向に俺たちも歩き出す。
「まあ、お前が掻っ攫ったわけだしな」
ククッと笑って、将大が俺の背中をパンッとたたいた。
「掻っ攫ったって人聞き悪いな。ちゃんと告白してちゃんと返事もらって付き合ってんのに」
そりゃ突発的な告白だったけど。
「そうだったな、悪い悪い。理沙があの子のこと、可愛かった可愛かったって言ってたぞ」
将大が笑って言う。
「岡林が他にどんなこと保科くんに言ったか聞いてるか? 将大」
「ん? 確か、みんな応援してるから、みたいなこと言ったって言ってたけど?」
「そっか……」
それを保科くんがどう受け取ったか、だな。
「どうした?」
「いや……、昨夜の保科くんの声がちょっと沈んでたから……」
「電話とかしてんだ?」
将大がニヤッと笑って俺を覗き込んでくる。心拍が上がって手のひらに汗が滲んできた。顔が熱くなってくるから俯く。
「そりゃ…、するよ。声聞きたいし……」
ボソボソと応えたら、壮太がうんうんと頷いて俺の背中をポンポンとたたいた。
「えーっと、じゃ最後に来週の予定の確認です。来週末、土日に大会があるんで木曜の休みは無し、です。忘れずに体育館に来てください」
終わりのミーティングで坂井部長が全体を見渡しながら言った。
わ…すれてた……っ 大会はさすがに覚えてたけど木曜……っ
うわ、てことは明日の次、保科くんとゆっくり過ごせるのはいつになるんだ?
ていうか……
「部活あるんだった、うわ」なんて思ったの、初めてだ……
自分で自分にびっくりした。
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