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T 75
こういうの、どう切り出すのが正解なのか分からない。
恒例になった夜の通話。保科くんに「何してたの?」とか訊いて、俺は部活の話をした。内野くんに会ったことは言わない。そしてまだ迷いながら口を開いた。
「あの……、保科くん。言い忘れてたっていうか、俺自身すっかり忘れてたことがあって……」
来週の木曜は、保科くんとはまだ何の約束もしていない。ただ俺が一緒に過ごしたいと思っていただけ。
「次の土日に大会があるから、来週は木曜も部活があるんだ」
『え……っ、あ……そ、うなんですか……』
一瞬息を飲んで、残念そうに聞こえる声で保科くんが言った。
「俺は、生徒会の用事が終わったら保科くんと何しようかな、とか思ってたから残念だなーって思ったんだけどね。でも、部活があるのを残念だなんて思ったのは初めてで、自分で自分に驚いたよ」
『僕も……っ』
保科くんの高めの声が耳に響く。
『僕も楽しみにしてましたっ。木曜日っ』
わ、保科くんも楽しみにしてくれてたんだっ
『でも、あの、あのえっと、大会っ、大会って僕も見れますか?!』
少し上擦った声が耳から全身を撫でていって体温が上がってくる。
ていうか……っ
「え、あ、うん、もちろん、え? 見に来てくれるの?」
トクトク、トクトクと心臓が鳴っている。
『行きたいです!』
「う、わ…嬉しいなぁ。やば……。じゃあ、詳しいことはメッセージで送るね」
『はい』
うん、て頷いて返事をしてくれる保科くんの様子が頭に浮かんだ。
「あ、あと明日なんだけどね、うちの両親朝から出かけてていないから、挨拶とか心配しなくていいからね」
『あ……、はい』
「猫たちにだけ挨拶してやって」
『はい! 楽しみです!』
あー、可愛い声!
「うん、俺も楽しみ。よかった、明日会うことにしてて……」
『はい……』
「おやすみ」って言い合って、保科くんが通話を切るのを待った。
あの綺麗な細い指がスマホをタッチする様を思い描きながら、スマホをデスクに伏せた。
掃除、しとかないとな。
好きな子を、恋人を部屋に入れるなんて初めてだからドキドキする。
あと服……っ
私服で会うの初めてだな。保科くん、どんな感じなのかな。
まあ、何着ても可愛いんだろうけど。
とか考えながら、部屋を片付けたり服を決めたりしているうちに夜が更けて、でもなかなか眠れなかった。
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