T      78

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 突然、脚に柔らかい衝撃を感じた。と思っていたら今度はジーンズに爪を立てて登ってきてる。どっちだろう、ちょっと痛い。 「あ……っ、先輩あの……っ」 「ん?」 「ねこじゃらし…遊んでるみたいです」 「え、あ、あー……」  そういえば、保科くん猫じゃらし持ってたっけ。……って、 「い、たたたたっ。なんか盛り上がってるな、俺の脚で」 「え、え、えっ、どしたらいいですか?! すごい引っ張ってますけどっ」  保科くんを抱きしめたまま身体を捻って後ろを見たら、ちょうどミルクが目を爛々(らんらん)と輝かせて飛び掛かってきた。 「うわ、ダメだなこれは。完全に遊びスイッチ入ってる」 「え、遊びたいですっ」  保科くんも猫たちに負けないくらい目をキラキラさせて俺を見つめてきた。  可愛いなぁ 「うん。遊んでやって」  抱きしめていた腕を解いたけれど、保科くんは俺に抱きついたまま俺の後ろにいる猫たちと遊び始めた。  なんだこれ、可愛すぎないか?!  俺のシャツを握ったまま猫たちと遊んでいる保科くんがあまりにも可愛い。 「あ! すごいすごいっ! わー、かわいー! ははっ」  保科くんが嬉しそうに声を上げながら夢中で遊んでいる。 「ほんと猫好きなんだね」 「だってかわいいから」  保科くん、タメ口っぽくなってる。嬉しいなぁ。  もっと俺に気を許してほしい。そして甘えてほしい。  我儘、とか言われてみたい。言わなそうだけど、保科くん。  ひとしきり遊んで、猫たちも保科くんも満足したようで、猫たちはソファで毛繕いを始めて、保科くんは俺を見上げた。 「お昼にしようか。飲み物はコーンスープ? それともコーヒーとか紅茶? あ、オレンジジュースもあるよ?」  そう訊きながら保科くんを軽く抱きしめた。保科くんがぴたっと俺にくっついてくる。    恋人ってなんて可愛い存在なんだろう 「……オレンジジュース、お願いします」  あ、敬語に戻っちゃったか。 「うん、分かった。準備するね。こっちおいで」  一度ぎゅっと抱きしめて、保科くんをダイニングテーブルに促した。 「ちょっと待っててね」と椅子を引いてやると、保科くんが俺をじっと見上げてきた。 「ん? どしたの? 保科くん」 「あの……、付いて行っちゃダメですか?」 「え?」   なに可愛い 「いいよ、もちろん。ほんと可愛いね、保科くんは」  細い肩を抱き寄せたら、保科くんが「だって……」と俺のシャツを引っ張る。 「いつもはこんなに一緒にいられないから……」  うわっ すごいキュンとしてしまった! 「……うん、そうだね。放課後だけだもんね」  抱きしめて、至近距離で見つめ合う。  保科くんが頬をピンク色に染めて、うんと頷いた。 「それに……、今週お休みないから……」 「あ……」  保科くんの唇がほんの少し歪んでる。 「そうだね。目一杯保科くんを補給しとかないと」  ぎゅっと抱きしめたら、保科くんも俺を抱きしめ返してくれる。 「僕も、秋川先輩いっぱい補給したいです」  うわ、やば、かわいーーー…… 「じゃ、キッチン一緒に行こっか」  小さい顔を見つめて言ったら、保科くんが嬉しそうに笑った。 「はい」 「ははっ、もう駄目だ。可愛い。保科くんがめちゃくちゃ可愛い」 「わっ」  思わず抱き上げた細い身体は、予想よりももっと簡単に持ち上がった。 「やっぱ天使なの? 保科くん。すっごい軽いね」  見上げながらそう言ったら、保科くんは大きな目をまん丸にして俺を見下ろした。 「うわ、もう……、どうしよう、俺……」  抱き上げた保科くんをぎゅうっと抱きしめた。何か甘い香りがする。 「幸せすぎる……」 「……僕も……」  わ……っ  俺の首に、きゅうって保科くんが抱きついてくる。 「すっごい…しあわせ…です」  う…わぁ……
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