Takayuki   8

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Takayuki   8

 放課後になったら、まずは生徒会室に行く。  そしてその日の用事を済ませたら部活に行く。他の部員より練習時間が短い分、集中してボールを追った。朝練も1番に行っている。  毎日めちゃくちゃ忙しい。                * 「えーっと、明日の体験入学の確認です」  放課後の生徒会室。笹岡(ささおか)綾乃(あやの)新会長が喋っている。 「5、6時限目が体験入学なので、昼休みはお昼を食べたら体育館に集合してください。仕事としては、中学生たちの誘導と引率、あとは制服の紹介です」 「男子のマネキンがいいわよね、今年は特に」  会計の渡部(わたべ)紗月(さつき)先輩が言う。 「2人とも180センチくらいあるでしょ」 「おれ、この前測ったら182になってた」  書記の藤堂(とうどう)茂章(しげあき)先輩がニヤッと笑って言う。 「秋川くんは? 何センチ?」 「174か5、くらいですかね」  俺以外の生徒会のメンバーは全員2年生だ。 「女子のマネキンは志穂(しほ)と紗月でよろしく」 「綾乃は?」  副会長の大沢(おおさわ)志穂(しほ)先輩が言った。 「私は演台の所で喋ってるから。それに2人の方が背も高いし、マネキンとしていいでしょう?」  ふふっと笑って言った笹岡会長に、自分を卑下するような様子はない。 「これが生徒会新体制の、表立っての初仕事だからね。ビシッといきましょう」   よく通る声で笹岡会長が言った。  会長は小さい。155センチあるかどうかぐらいだろう。でもなぜか存在感のある人で、ステージに立つと大きく見える。  この人に強引に誘われて、副会長に立候補することになり当選してしまった。副会長は2人体制で、選挙の時点で2年と1年が1人ずつ、ということになっている。他は何年がやってもいいけれど、たいてい2年が立候補するらしい。 「はい。という段取りで明日、お願いします。今日は一応これで解散です。藤堂くんと秋川くんは部活行ってらっしゃいませ」 「おー、お疲れー」  藤堂先輩が立ち上がるのに合わせて俺も席を立った。 「お先に失礼します」 「2人とも頑張ってねー」  3人の先輩たちに見送られて生徒会室を出た。  大急ぎで部室に向かい、着替えて体育館に駆け込む。ストレッチをしてから練習に混ざった。  平日は、バスケ部が休みの木曜以外はこんな感じだ。足りない分は全体の練習が終わってから残らせてもらったり、家に帰ってから走ったりする。 「貴之お前さー、また告白断ったんだって?」  居残りでシュート練習をしている俺を見ながら、(たちばな)将大(そうた)が声をかけてくる。同い年の将大は、中1でバスケ部に入部した時からの友人だ。 「んー? なんで知ってんの、将大」 「お前の行動は女子の連絡網であっという間に広がんだよ。それを耳に挟んだだけ」 「こわ」  苦笑しながら投げたボールが、シュポッとゴールリングを通った。 「なんで誰とも付き合わねーの? 貴之」 「んな余裕ないよ」  落ちてきたボールをそのままドリブルして、3ポイントのラインまで下がってまたシュートを打った。 「でも木曜と日曜は試合とかなけりゃ休みだし、特別なことしなくても昼飯一緒に食うとか、部活見に来てもらうとか、それぐらいならできるだろ?」  リングを通って床を跳ねているボールの音に負けない声で、実際そうやって彼女と付き合っている将大が言う。将大の彼女の岡林(おかばやし)理沙(りさ)は今日は「友達とカフェに行く」とかで先に帰ったそうだ。 「……かもしれないけど……面倒、ていうか……」 「まあ、つまり、好みじゃなかったと」  ならしゃあねぇな、と将大が笑った。 「秋川、橘、そろそろ終わりにしろー」  顧問が体育館を覗いて声をかけてきた。 「はい」 「はーい」  ボールを軽く拭いて倉庫に片付ける。 「でもなぁ。一通り全タイプ来たんじゃねぇ? 可愛い系、キレイ系、小悪魔系、あと何だっけ? つかどんな子がいいの? 貴之」  ほぼ同じ高さから俺を見つめる鋭い将大の目は、黙っていると怖がられる、もしくは「ケンカ売ってんのか?」と言われてしまう。もっとも、最近は将大も一緒にいる俺も体格が良くなったから、絡まれることは少ない。 「いや、だからさ、そういうんじゃなくて忙しいから……」  親友、と言ってもいい将大にも、言っていないことがある。  俺は女の子に心が動かない。  可愛いとは思う。でもそれだけだ。  かと言って、男が好きなのかも分からない。  この歳まで、誰かを好きになったことがない。  恋愛感情をそもそも持ち合わせていないタイプ、というのもいるらしいと最近知った。  俺もそのタイプなのかもな  そんな風に、この頃は思っている。
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