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 向かい合って座るより横の方が近いから、隣同士に座って椅子を近付けた。  膝と膝が当たる距離で見つめ合って笑い合う。 「保科くん、たまごサンド一口食べる?」  秋川先輩がサンドイッチのパックを開けながら言った。 「え、いいんですか?」  ゆで卵をマヨネーズと和えたタイプのたまごサンド。それを一つ、秋川先輩が長い指で摘んだ。 「いいよ。はいどうぞ」  そう言って先輩が僕の方にサンドイッチを向けた。  これって……、あーん、ってやつ?  ちょっと恥ずかしい  でも恋人っぽくて嬉しい  秋川先輩を見て、おずおずと口を開けたら、先輩が目を細めてたまごサンドを食べさせてくれた。  すっごいすっごいドキドキしてるけど、ふわっとしたたまごサンドが、白身がちょっとゴロッとしてて美味しいのはちゃんと分かった。 「どう?」  眩しい笑顔で先輩が訊く。 「おいしーです」 「そっか、よかった。俺、これ好きなんだよね」  ふふって笑った秋川先輩が、僕が齧ったサンドイッチをぱくぱくっと食べた。  間接キ……ッ  思わず先輩の口元を見て、そして目を逸らした。  お昼ご飯食べてるだけでドキドキしちゃう。  テーブルの上の、ビニール袋に入ってるコーンマヨネーズのパンを手に取った。  ……僕もしたいな、さっきの 「秋川先輩、あの……」  食べやすいように、パンを半分くらい袋から出して先輩の方に向ける。 「……コーンパン、好きですか?」  両手で持ったパンを少し差し出し気味にしながら訊いてみた。秋川先輩は少し目を見張って、それからにこっと笑って僕をじっと見た。 「うん、好きだよ。一口もらっちゃってもいいの?」  ついその唇に目がいく。 「はい、ど、どうぞ……」  パンを持ってる手に、じわりと汗が滲んでくる。それにちょっと震えちゃう。 「じゃあ、お言葉に甘えて」  そう言った秋川先輩が、スッと顔を寄せてきた。  すごい……っ まつ毛長い……っ  二重もくっきりしてて、ほんとすっごいカッコいい……っ  その格好いい秋川先輩が今、僕の手からコーンパンを食べてる。  かぷりと齧りついた顔は、ちょっとかわいい。  って思ってたら、パンを齧り取った先輩が、僕を見て笑った。唇をぺろっと舐めて、嬉しそうにまた笑う。 「もう何回も食べてるパンだけど、保科くんと食べてる今日のが1番美味しい。明日も学食楽しみだなぁ」 「え……」  思わず秋川先輩の整った顔を凝視した。 「ほんとだよ? それぐらい、保科くんは俺にとってスペシャルなんだよ」  僕をじっと見返して先輩が笑う。 「大好きだよ、保科くん」  照れくさそうに目元を赤く染めて、でもはっきりと秋川先輩が言ってくれた。  僕はコーンパンを持ったまま、ただただ頷いた。 「うわー……。可愛いなぁ……。俺、こんな可愛い子と付き合ってんだなぁ……」  そんな風にしみじみ言われたら、どんな顔をしたらいいか分からない。  視線を落とすと、秋川先輩が齧ったコーンパンが見えた。  それを食べやすい向きに持ち直す。  秋川先輩が、僕を見てる。    先輩の齧ったところ……  ドキドキしながら唇を開く。  かぷっと齧り付いて、上目に秋川先輩を見た。  あ  先輩が左手で口を覆って目を逸らした。  秋川先輩の歯が付けた、コーンパンのギザギザの断面の感触。  視線を感じて目を上げたら、先輩が僕を見ていた。 「……保科くんといるとドキドキする……」  眩しい時みたいに目を細めて秋川先輩が呟いた。 「……僕もずっと、ドキドキしてます……」 「一緒だね」 「はい」  ふふふって笑い合って、またパンを齧った。秋川先輩がハムカツサンドを食べさせてくれて、僕はメロンパンを「どーぞ」ってした。    
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