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 促されて部屋の中に入ったら、先輩がパタンとドアを閉めた。  2人っきりが、もっと2人っきりになった。  僕の肩を抱いている秋川先輩が、反対側の腕をすぅっと伸ばしながらゆっくりと動いて僕を抱きしめてくれる。  最初はふわっと。それから徐々に力がこもって、ぎゅうっと抱きしめられた。  気持ちいい圧迫感。  僕も先輩の背中に腕を回して、大きな身体を抱きしめた。  秋川先輩が、くっと息を詰めてそして、ふーって吐き出した。 「一目惚れした初恋の子が恋人になってくれるなんて……、俺、早死にするんじゃないかなぁ。運使い過ぎて」  くすって笑いながら先輩が言う。胸の奥がとととんって鳴ってきゅんてした。  ……初恋……ほんとだった…… 「保科くん?」  秋川先輩の胸に顔を擦り寄せて、ぎゅうっと抱きついた。 「……それ、僕もおんなじ…です……」 「え……、そう…なの……?」  胸にくっつけた耳から、驚いた嬉しそうな声と、ドキドキしてる心臓の音が聞こえてきてる。 「……はじめて、好きになりました……」 「うわ……っ」  また秋川先輩が僕を強く抱きしめた。2人分のドキドキで部屋が揺れてる感じがしてる。 「そっかー……。うわぁ、すごいな」  耳のすぐそばで先輩が呟いた。柔らかい声で頭がじんわりと溶けてしまう気がする。 「僕も、早死にしちゃいますね」  なんて応えてみた。 「じゃ、一緒に天国行こっか」  ふふって笑って秋川先輩が言う。 「はい」  ずぅっと一緒にいたい 「ほんとに? 保科くん。俺もう離さないよ? 天国までも……、天国行ってからも……」 「……っ」  苦しいぐらいの力で抱き(すく)められて幸せで目が回る。  秋川先輩のオフホワイトのシャツを握りしめてしがみついた。 「ぼ…僕も離しません……」 「…うん、うん、保科くん。……大好きだよ」  先輩が大きな手で僕の頭を撫でてくれる。 「せんぱ……っ、すき……っ」 「ははっ、かわい……っ、可愛いねぇ、保科くん」  すりすりと頬を擦り寄せられてくすぐったい。  ……あっ  ちゅって……、ほっぺ……っ  思わず見上げたら、秋川先輩と目が合った。  目元、赤い……  キス……  もっと…してほし……  少し、顔を上げる。先輩がもう一度頬にキスをしてくれた。  くちびる、やらかい  このくちびる、が……  ちゅっ、て今度は頬の低い位置に口付けられた。秋川先輩が指の背で僕の顔を撫で下ろす。 「……保科くん……」  僕の目をじっと見つめてくる秋川先輩の瞳が熱を帯びてくる。 「はい……」  ドキドキしすぎて声が掠れた。  涙が滲んでくるから、何度も瞬きをして秋川先輩を見上げた。  先輩がまた「うわ」って小さく呟いて目を見張って、そして微笑む。 「……キス、したいんだけど……いいかな……?」  少し首を傾げて、照れくさそうに訊いてくれてる。  ドキドキ ドキドキ  秋川先輩を見つめたまま頷いて応えるけれど、なんか動きがカクカクする。 「ありがとう、……保科くん」  笑みの形でそう言った先輩の唇をつい見てしまう。  僕を抱きしめていた手が両肩に添えられて、秋川先輩がゆっくり屈んでくる。  ドキン ドキン ドキン ドキン  心臓…っ 壊れちゃう……っっ  
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