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 近付いてくる秋川先輩の顔。  格好よすぎてもうこれ以上は無理……っ  ぎゅっと目を閉じたら、くすっと笑う先輩の息遣いが聞こえた。  眉間に優しく唇が触れる。力の入っていた眉間と唇が、ふっと緩んだ。    あ……っ  触れるか、触れないか  掠めるようなキス  身体中の血管が爆発しそうなくらいドキドキしてて、頭がくらくらする。  目を開けたら、潤んだ視界の中、秋川先輩が僕を見ていた。  揺れる世界で、ほんの少し不安そうな「大丈夫?」って訊きたそうな顔をしてる。  だから僕はもう一度目を閉じた。  僕の肩を包みように掴んでいる大きな手に力がこもる。  閉じた瞼に影を感じた。    ……あっ、やっぱり……  くちびる……やわらかい……  上手く息ができないけれど、微かにコーヒーの香りがする。  秋川先輩の唇が、優しく優しく僕の唇に触れている。啄むように口付けられて気持ちいい。  僕も……  ドキドキしながら先輩のシャツに掴まって顎を上げた。  秋川先輩の唇の動きに合わせて唇を開くと、濡れた粘膜同士がくっつき合って水音が立った。  ちゅって、いうんだ……ほんとに……  優しくて、柔らかい触れ合い。  キス……きもちい……  ちゅって唇を離されて、ゆっくりと目を開けたら秋川先輩が僕を見ていた。 「好きだよ、保科くん」  いつもよりもっと甘く感じる、秋川先輩の声。 「……ぼくも…すきです……」 「うん……。ありがとう、保科くん……」  先輩が、ふんわりと抱きしめてくれる。  心臓はずっと強く跳ね続けていて、もう普通の速さが思い出せない。 「ね、保科くん」  秋川先輩がおっきな手で僕の頭をゆっくり撫でた。 「これからも……、初めてのこと、俺としてくれる?」    好きになったのも、付き合うのも、秋川先輩が初めて  抱きしめられたのも、キス、も……  背の高い秋川先輩を見上げて、僕よりずっと大きくて硬い先輩の身体をぎゅうっと抱きしめた。自分もドキドキしててよく分からないけど、心音が伝わってくる気がする。 「……ぜんぶ……先輩とがいいです……」 「保科くん……」  秋川先輩が僕を包み込むように抱きしめてくれる。 「……ほんとに俺でいいの……?」  少し掠れた、自信なさげな声で先輩が言う。  どうして……? 「秋川先輩が、いいです」  ぎゅうっと抱きついたまま先輩を見上げて、『が』に力を入れて告げた。 「他の人じゃ……やです…‥っ」  不意に強く抱きしめられた。  ちょっと苦しい、けど……  しあわせ 「大好きだよ、保科くん。すっごい好き……」  僕の耳元で、秋川先輩が囁いてくれる。  耳、あっつい……っ 「俺ね、毎日学校で天井ばっかり見てるんだよ」 「え?」 「上の階に保科くんがいるんだよなーって思って」 「あ……」  ふふって笑って、秋川先輩がまた僕の頬にキスをする。 「あの体験入学で一目惚れして、会いたいなぁって神頼みして、入学式でびっくりして、それから毎日、天井見てる」 「神頼み……?」 「そ、ランニングの時に神社に寄ってね。入学式の日はお賽銭百円入れたよ。それまでは一円か五円だったけど」  くすくす笑いながらそう言った秋川先輩が「こっちおいで」って僕を促して、ベッドに並んで座った。先輩が僕の肩に腕を回して抱き寄せてくれたから、僕は先輩にもたれかかった。 「案外会えないよね、学校って」  少し眉を歪めて、秋川先輩が残念そうに言う。 「会えないけど、僕は先輩のこと結構見られてました」 「え?」
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