Takayuki   93

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Takayuki   93

 階段の明かり取りの窓からの光を浴びた保科くんが、キラキラした笑顔で駆け下りてきた。  やっぱ天使!  めちゃくちゃ可愛いーーっっ  って、わっっ  可愛い可愛い保科くんが、足を滑らせて飛び込んできた。 「…っぶなーー……」  いくら細くて軽くても、勢いつけて落ちてきたら重い。  重くても、絶対に取り落とすわけにはいかない。  大事な大事な俺の恋人  何より大切で重い  受け止められて、心の底から安堵した。  それでも心臓はバクバクいってて、保科くんから手を離すことができなかった。  周りからどう見えるか、とか考える余裕ない。  ていうか『みんな応援してる』ならいいじゃないか。  そう思ってずっと肩を抱いて学食まで来た。  内野くんの指すような視線を背中に感じながら。  保科くんは感じるのかな、この視線。  そんなことを考えながら食券機の列に保科くんを誘導した。誘導してるように見えるように、保科くんを内野くんから隠した。  中学からの友人だという内野くんも知らない保科くんの顔を、俺は知ってる。  食事を始めて、隣の保科くんをちらちらと見ていると、その向こうの内野くんと目が合った。保科くんは俺の方しか見ない。  申し訳ないけど嬉しくなってしまう。  内野くんが眉間に皺を寄せて唐揚げを頬張った。松岡が内野くんの向こう側から、困ったような苦笑いを俺に向けてきている。    全部気付いた、か。  案外察しがいいよな、松岡は。  まあ、俺の気持ちはさっき保科くんを受け止めた時言っちまったしな。  ゆっくりと減っていく保科くんのカレーを見ながら、俺もゆっくりと食事を進めた。  小さい頃、両親と兄が先に食べ終わってしまった食卓で、少し取り残されるような気持ちになった。母は俺が食べ終わるまで一緒に座っていてくれたけれど。  岡林は山田さんに話しかけていて、松岡は海外サッカーの話なんかを内野くんにしている。山田さんが岡林と将大に「付き合ったきっかけは?」とか訊いてて、2人が照れくさそうに応えていた。 「秋川くん」 「保科くん」 「カレー美味しかった?」  俺と保科くんがカレーを食べ終わって一息ついた時、頭上から3人分のよく知った声がして肩をポンとたたかれた。 「会長」  と渡部先輩と大沢先輩が俺たちの後ろに立っている。保科くんが3人をびっくり顔で見上げた。 「ていうか派手なメンツねぇ。なにこのテーブル」  笹岡会長がぐるっと見渡して言う。そして保科くんを少し覗き込んで、にっと笑った。 「今日もお手伝い来られる? 保科くん」  会長がよく通る声で保科くんに訊いた。 「あ、はい。行けます」 「ほんと? 良かった。じゃ放課後お願いね」  あ……っ、これって……  笹岡会長が俺をチラッと見て、「じゃあね」と言って返却カウンターへと向かって行った。  周りにいる生徒たちが「ふーん」な顔をして軽く頷きながら俺たちの方を見ていた。 「周知徹底」  将大がボソッと言って、くすくすと笑った。  
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