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「貴之お前さぁ、めっちゃくちゃ幸せそうな顔してカレー食ってたな」  1年生のフロアへ階段を昇っていく保科くんを、名残惜しい気持ちで見送ってため息をついたところで、将大が俺の肩にガシッと腕を回しながらボソッと言った。 「…昨日、あの子と会ってた?」 「え……っ」  思わず目の前の将大の顔を凝視してしまった。将大がニヤリと笑う。 「なんかちょっと雰囲気変わってたから。……お前もだけど」 「!」  首から、頭へ背中へと熱が広がって汗が滲んでくる。  ははっと笑った将大が、俺の肩をパンパンとたたいて岡林の隣に並んだ。  松岡がスッと寄ってくる。 「おれ、内野に恨まれてっかなぁ……」  渇いた笑いを浮かべた松岡が眉を歪めて言う。  内野くんは、2年のフロアに着いた時、俺らにサッと頭を下げて階段を駆け上がって行った。 「いや、恨まれてんのは俺だから、松岡は大丈夫だと思うけど」  正確には、内野くんは自分自身を恨んでるんだろうけど。 「それはさぁ……、しゃーないべ?」  松岡が苦笑いを浮かべて俺を見た。 「だってお前らめっちゃラブラブじゃん?」 「……っ」  ドキンと心臓が跳ねた。顔がカッと熱くなる。 「文句言う気にも、割って入る気にもなんねぇよ、あんなん見せられたら。でもそれを近くで見るハメになったのって、おれのせいじゃん?」  天井を仰ぎ見て、ふぅ、と息を吐いた松岡が顔を(しか)めてポリポリと頭をかいた。 「…てなるとやっぱ俺のせいなんじゃないの? ごめんな、松岡」 「いや……。秋川のせいじゃねぇし。つか内野にとっては、保科くんがお前のことしか眼中にないってことの方がショックでかかったみたいだし。まぁでもそれもしゃーないことだしさ。しばらく荒れるのは覚悟したから」  苦笑しながらそう言って、松岡はじゃあなと手を振って足早に教室に戻って行った。
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