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 あれ?  放課後、保科くんを階段で待っていたら、保科くんだけが下りてきた。今度は足元をしっかり見ながら下りてきてる。かわいい。 「1人?」 「あ、なんか内野、ちょっと用事があるって言って……」 「ふーん、そっか」  たぶんそれは嘘だけど、保科くんは疑ってなさそうだ。  まあ、会いたくないよな、俺とは。  保科くんの方に腕を伸ばしたら、保科くんは俺を見上げてはにかんだ笑顔を浮かべ、すすっと俺に寄ってきた。  や…っばいくらい可愛い  細い肩を抱いて階段を下りて生徒会室に向かう。 「あー、来た来た、仲良し2人ー」  渡部先輩が生徒会室の出入口からひょいと顔を出したから少し驚いた。 「あの後ね、みんなに『あの子誰?』って訊かれて、『可愛いでしょー?』って自慢しちゃった」  笹岡会長がくすくす笑いながら言って、保科くんに手招きをしてる。 「保科くんこれね、隣の職員室の一番近くの入口から入って、すぐ右手の棚の上に『生徒会書類』って書いてあるトレイがあるから入れてきて」 「はい」  会長が差し出した、クリップで留められた書類を受け取った保科くんが真剣な顔で頷いた。  かわいい  書類を両手で持って生徒会室を出ていく愛しい後ろ姿を見送る。  そうだ 「会長、あの……、学食で、ありがとうございました」  頭を下げたら、笹岡会長は首を横に振った。 「私は今日保科くんが来てくれるか確認しただけよ」  ねぇ、と会長が大沢先輩に言うと、大沢先輩が大きく頷いた。 「うちの大事なメンバーだからね、保科くんは」 「そうそう」  渡部先輩も頷いてる。そこに保科くんが戻ってきた。室内を見回した保科くんの視線が、俺のところでピタッと止まった。  わっ  ふわっと笑った保科くんから、温かい光が広がってくるように見える。  保科くんがとことこと俺のそばに寄ってきた。抱きしめたいのを必死で我慢する。 「すぐ分かった?」 「はい」  えへへって感じに笑うの、めちゃくちゃ可愛いんだよな。 「癒されるわー」 「ほんと」 「可愛いは正義よね」 「あ、おれ、保科紹介してくれって言われたぞ」  藤堂先輩がニヤッと笑う。 「女子だけじゃなくて男子からも」 「断ってください」  つい食い気味に応えてしまった。 「ははっ、分かってるよ。その場で断っといたから大丈夫」  可笑しそうに笑った藤堂先輩が、宥めるように俺の肩をポンポンとたたいた。  
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