Rin     97

1/1
前へ
/138ページ
次へ

Rin     97

『明日の昼、2人で食べない?』  秋川先輩の甘い声が、スマホを通じて耳にシュワッと染み込んでくる。 「あ、は、はい……っ」  えっ、2人で? 2人でって言ったよね?! 『保科くんは普段弁当って言ってたよね? 明日も?』 「あ、はい。そう…ですけど……」  僕が何も言わなければ、母はお弁当を作ってくれる。 『じゃあ空き教室で食べようか。松岡がやってたみたいに予約しとくよ』  笑ってるんだろうな、と分かる柔らかい声が耳に心地いい。 「はい」 『楽しみだなぁ、明日』  こういう照れくさいこと、はっきり言ってくれるの嬉しいし安心する。 「はい」 『今日も、思った通りいつもより美味かったし、カレー』 「……ほんと…ですか……?」 『ほんとだよ』  秋川先輩の優しい声と優しい言葉。ずっと聞いていたくなる。  でも、電話で先輩の声を聞いてると、日曜日に抱きしめられて耳元で囁かれたのを思い出して、身体が熱くなってきちゃう。  秋川先輩の手、おっきかった  手だけじゃなくて…… 『保科くん』  ドキン、と大きく心臓が跳ねた。 『今日はそろそろお終いにしようか。暑くなってきたからしっかり寝ないと』 「……はい」  寝られるかな……  思い出しちゃった……、色々…… 『ほんとはね、もっともっと話したいけど……。話すっていうか、保科くんの声を聞きたい。俺、保科くんの声、すごい好きなんだよね』 「え……?」 『好きだよ、保科くん』 「あ……」 『大好き』  うん、て頷いて「電話だったっ」って焦った。 「あ、あ、あ、あのっ、ぼくも……っ」 『うん?』  この訊き方、大好き 「だいすき……」  手で口の周りを囲ってコソッと言った。 『っわ、やば、かわい……っ』  ちょっと早口で秋川先輩が言う。  ドキドキする。  ドキドキ ドキドキ 『……電話、切れないね』  笑みを含んだ声に「はい」と応えた。 『でも切って寝なきゃなぁ。寝れっかな……』  ふふって笑った息遣いが耳をくすぐる。息がかかる感触を、身体が思い出してしまう。  僕も……  って言うのが恥ずかしくて唇を噛んだ。 『じゃあ、ね。名残惜しいけど……、また明日ね、保科くん』 「はい……」 『おやすみ』 「おやすみなさい」  まだ秋川先輩と繋がってるスマホの、赤いアイコンを「えいっ」ってタッチした。僕が切るまで先輩は待っててくれる。  心臓がドキドキと跳ねていて、パジャマにしてるTシャツの胸を掴んだ。  どうしよう  身体…熱い。昨日先輩とキスした時みたいに。  あの時以外でこんなになったことない。  このまま寝る、とか絶対無理。  息も荒くなってきてる。  宿題終わっててよかった。  ゆっくり立ち上がって、部屋の灯りを消してベッドに潜り込む。  いいのかな、こんな…、先輩のこと考えて……  でももうだめ  頭の中、秋川先輩でいっぱいになってる。  先輩の声、体温、抱きしめてくれる腕の強さ。  全部思い出せる。  おっきな手の熱さも…… 「……ん…っ」  また、あの手で触ってほしいな  首にキス…とか  秋川先輩の唇の感触。肌にかかる息の温度と湿度。  ざらりとした舌の…… 「……っ」  昇った頂きが、ちょっと低い。  先輩の連れていってくれた頂上はもっともっと高かった。  こんなこと考えてるの、恥ずかしい  恥ずかしいけど、でも……  またあの秋川先輩の少し硬い指で、僕の身体を撫でてほしい  
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!

300人が本棚に入れています
本棚に追加