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 お昼のこと、眞美ちゃんと内野に何て言おう。  朝、母からお弁当を受け取って、「わーい、今日は秋川先輩と2人で」って思ったところではたと気付いた。  眞美ちゃんと内野とは入学してからずっと一緒にお昼ご飯を食べてる。ホームマッチの時とか、他の人が混ざることはあったけど、3人一緒はずっと同じだった。    眞美ちゃんは……大丈夫か。僕と先輩が付き合ってるの知ってるし。  問題は内野だ。また機嫌悪くなって「なんでだよ」とか言われる。  ……でも言わなきゃ。秋川先輩と2人でお昼ご飯食べるんだもん。  今週は木曜も部活だから、2人になれるチャンスを逃したくない。  サッカー部も朝練があるから、内野が教室にくるのは大抵予鈴が鳴ってから。そう思って教室の出入口を見ていたら、やっぱり内野は本鈴ギリギリに入ってきた。と思ったらズンズンと僕の席に近付いてくる。 「保科、今日オレ、部活のやつらと昼飯食うから」  少し身を屈めて僕を見ながら、内野がはっきりそう言った。 「…え、あ…うん」 「じゃ」  内野が踵を返すのと、本鈴が鳴ったのがほぼ同時で、教室に入ってきた担任が内野と他数人のまだ席に着いてない生徒に「早く座ってくださいねー」と声をかけていた。  ……そっか、内野部活の友達と……。朝練の時そんな話になったのかな。  でも、うん。そんなこともあるよね。  タイミングよくてラッキー。だって何て言えばいいか分かんなかったし。  ちらりと内野の方を見たら、内野は机に肘を突いて前を見ていた。  こういうことが今までなかった方が不思議だもんね。中学の時だって、内野はサッカー部の部長やってたのに、休み時間とか僕たちといる方が多かった。  昨日も長かった午前中が、今日もすごく長い。昨日は朝礼で秋川先輩を見たけど、今日はまだ見れてない。  朝練も見たい。  でもそもそも朝練って見学できるの? できなさそう、だよね。  お昼に秋川先輩に訊いてみよう。  昼休み、遠いな。早く会いたい。  教科書を見ているふりをしながら、教室の床を見つめた。  1コ下の階に、先輩がいる。  秋川先輩は「天井ばっかり見てる」って言ってた。 「保科くん! 保科くん来てっ」 「え?」  休み時間に突然廊下からクラスの女の子に声をかけられた。  何人かが慌てた様子で走ってきて僕の手を引く。 「え、え、え?」  引っ張られてる僕に、眞美ちゃんも目を丸くして付いてくる。内野は僕の前の席の椅子に座ったまま僕たちを見ていた。 「ほらほら外! 秋川先輩!」  開いた窓の所にいた女の子が下を指差しながら手招きする。  窓枠に手をかけて下を覗いた。  秋川先輩だ!  彼女たちが「秋川せんぱーい」って大声で呼ぶと、先輩は右手で(ひさし)を作りながら僕たちの方を見上げた。  わっ  手、振ってくれたっっ  周りの子たちが「きゃー」って盛り上がった。 「ほら、保科くんも手振って! ね!」 「え、え、うん…っ」  胸の前で小さく手を振る。秋川先輩も僕の方を向いて笑いながら振り返してくれた。 「かぁっこいいーー! いいなぁ、保科くん」 「ねーー!」  秋川先輩は橘先輩と一緒にグラウンドの方に歩いて行った。その後ろ姿を見送る。 「よかったね、琳ちゃん」  眞美ちゃんが僕に笑いかけた。他の女の子たちもにこにこしながら僕を見てた。  一気に体温が上がってくる。思わず両手で顔を隠した。 「ははっ。保科くんかーわーいーいー」 「そりゃ惚れるって、こんな可愛かったら」 「でしょでしょー? もーほんとね、琳ちゃんは可愛いの!」  みんなが僕の周りできゃあきゃあ言ってるうちに休み時間終了のチャイムが鳴った。  あと2時間……っ  昨日もそわそわしてた。今日もそわそわしてる。  高校入学してからずっと、ドキドキしてそわそわしてる気がする。  ううん  去年、体験入学で秋川先輩に会った時からずっと……    先輩に恋をしてから、僕はずっとドキドキしている
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