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「なにこれ?何が起きてるの?」
周りに聞こえないように、これをやったであろう奴に小声で話す。
原理はわからないが、こんなことする奴も出来る奴も一人しかいない。
『これか?これはお前の頭に直接話しかけてるんだ。ほら、そなたが以前死にかけたときに心の中で会話したのを覚えておるか?そのときの応用だ』
「なるほど……って、それができるならなんで初めからやらないのさ」
『出来るようになったのはついさっきだからな。1人で黙ってるのがつまらんからなんか出来んかといろいろこねくり回していたら、ヘルディンの名前が聞こえてきて、以前の記憶を思い出してつい力がこもってしまった。そしたらなんか知らんが出来るようになってた』
「知らんがって……そんな適当な…」
『おそらくだが、イライラしてこねくり回してた術式を投げたらそなたの心?みたいなやつに当たったから、それが原因だろう』
「何してくれちゃってんのー!?」
少し声が漏れてしまった。
また隣から変な目で見られる。
私は急いで自分の口を両手で塞いだ。
くそぅ…ルナのやつ変なことばかりして……後でとっちめてやる…!
……ってか、さっきから忘れてるのかあの恥ずかしい口調が聞こえてこないな。
「……今の話は後で詳しく聞くとして…のじゃ口調はもういいの?使ってないみたいだけど」
『何を言っているのだ。あんな恥ずかしい口調で話すなど、妾の雰囲気に合わぬではないか』
……何を言ってるんだこいつ?
今朝までは……って、そういえば今朝はのじゃ口調ではなかった。
どういうことだ?
『時代は移り変わるもの。今は厳かな雰囲気が流行っているのだ。流行に乗り遅れては恥をかくだけだぞ?』
得意気に胸を張って、ドヤ顔しているであろう姿がありありと目に浮かぶ。
……この野郎っ!
今すぐお仕置きしてやるっ!
『あ、ちょっ、待て!悪かったから!』
知るか!
シッペの構えを取り、勢いよく振り下ろそうとしたそのとき。
「それじゃあ、イーリス嬢はあそこの席に座ってくれ」
担任の先生の声が聞こえ、ビタッ、と空中で止まる。
そういえば、ここは教室だった。
ここでもしこの手を振り下ろせば、ルナが教室内で叫ぶのは避けられないだろう。
そうすれば、さすがに誤魔化すのが面倒なことになる。
『ふぅ…助かった……そうカリカリするものではないぞ?』
「誰のせいでこうなっていると思ってるのっ!」
後で必ずお仕置きする。これは絶対だ。
まあ、経緯はあれだがあの恥ずかしい口調を止めてくれるみたいだから、そこは良しとしよう。
私は上げていた手をゆっくり下ろした。
担任の先生が空いてる席を指差す。
一番右後ろの廊下の窓際の席。
そこは、レオン殿下の席の隣でもあった。
先生に席を指示されると、気分がいいのかルンルンと笑顔で席に向かっていく。
そして、席に座る前にレオン殿下の方に向き直った。
「レオン様!イーリスです!よろしくお願いしますね♡」
その瞬間、教室内がザワッ、とどよめく。
レオン殿下を様付けで呼ぶなんて、この国では許されていないからだ。
王族側が許さない限り、レオン殿下に殿下という敬称をつけずに呼べるのは同じ王族だけ。
それがこの国のルール。
だが、この女は不敬にも、レオン殿下に殿下という敬称を用いずに呼んだ。
レオン殿下は、何も言わず動かない。
そして、辺りがざわつく中、ある生徒が椅子から立ち上がると、レオン殿下とあの女のところに歩いていった。
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