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第73話 クエルの思い出
ある昼下がり。
教会の鐘が鳴り響きました。
誰かがお亡くなりになったようです。
「じいちゃん?どこ行くの?」
お葬式だそうです。
知っている人がなくなるのはつらいし寂しいです。
爺ちゃんをクエルと一緒に見送りました。
チサが来る前は、鐘は嫌なくらいなっていたのよ、今は本当に静かになって、こうして亡くなった人のことを思うことができるようになったわ。
私の頭を撫でながらクエルはいった。
「いっぱい死んだの?」
「いっぱい、いっぱい死んだわ」
「食べ物がなくて?」
「それもつらいけど、病気も寒さも、もう繰り返したくないな」
クエルは、外の遠くを見ながらそういいました。
少し膨らんだお腹に手を当てる姿は、もうお母さんです。
「クエルのママさんはどんな人だったの?」
「優しい人だったわ、やさしすぎて…」
言葉が続かなかった、私は、彼女に抱き着いた。
「そうね、チサもママや兄弟を亡くしたんだもんね、大丈夫、ちゃんと前を見てる、さあ、片付けようか」
「うん、あのね、あのね」
私は精いっぱい話を違う方へ向けました。
ママさんにクエルの母親が死んだときのことを聞きました。
クエルの母親は病気で亡くなった。それも、教会に来ていた人たちが持ち込んだ病でだそうだ。
あの時は、先生やお留さんも病気になり、この村には悪霊がいると言って人が逃げ出すほどだった。
ただ、どこへ行ってもその病はあって、大変だったそうだ。
食べるものもなくて、高い熱にだるい体。やる気も起こらず、寒さで、道に倒れ亡くなる人も多くいた。
教会の前には、前よりもっと多くの人がいて、子供は置いてけぼりにされ、そのままなくなるのを見かねた奥様が手伝いに行って病気になったんだそうだ。
そしてアロー叔父さんが一人でいるのも聞いたんだ、大事な彼女が同じときになくなったんだって。だから一人みたい。
「チサが来て、湯たんぽや上の部屋にもストーブが付いて、考えられないほどのことが起きてる、もし奥様が生きている時に、お前の知恵があったら、奥様は死ななくて済んだのかもしれないと思うよ」
涙を抑えながらママさんが話してくれた。
クエルもお母さんになる日が近づいている。
そんなある日の事だった。
「チサ、チサ!」
んー、なにー?
朝、起こされた。
爺ちゃんがというので飛び起きた。
おでこに手を置いた。
熱がある。
季節の変わり目、秋。乾燥してます。
「少し震えてる、部屋を暖めて、頭は冷やして体はあっためよう」まだ咳は出ていない。足元を探ると、冷たくなった湯たんぽ。
「チサ」
「大丈夫、爺ちゃんは元気になる、まずは、先生を呼ぶ前にやることをしよう、落ち着いて、大丈夫、ボブ兄ちゃんはストーブに火を入れて、お姉ちゃんは、毛布をもう一枚、俺は台所行ってくる!」
クエルは部屋には入らないで、私が準備します。
口にはマスク、そして寒いけど喚起をしましょう。
湯たんぽを入れなおして、おでこには氷嚢。
そしてこれです。
「じいちゃん、ちょっとでいいから飲んで」
砂糖とお塩、それにしょうがを入れたレモネードをさましたものです。
コク、コクと飲みました。
「ボブ兄ちゃん、ここは、クエルにうつるといけないから外に連れて行って、いい、手をよく洗って、うがいして、あったかい部屋にいて、いいね」
コク、コクとうなずくクエルを連れだしてもらった。
さて、たぶん、風邪でしょう、でもなめてかかっちゃいけません、なんせ、医学が発達していませんからね。
ストーブの上には大きなやかん、これも作ってもらいました。
水蒸気がいい具合にシュンシュンと出ています。
パパさんが来たので、トイレと着替えをするのを手伝ってもらった。
汗はいっぱいかいてた、よかった。
「汗だくだな」
「悪いものを出しているからいいんだ、先生は?」
「今呼びに行っている」
寝る前にもう一度水分補給です。
布団を直し、おでこにタオルを置いた。
「チサ」とパパさんに呼ばれた。
ん?
「いや、何でもない、何かあったら呼んでくれ」
「うん」
だるそうな爺ちゃん。ご免なさいです、たぶん私のせいで疲れが出たんです。
パパさんは気にするなというけど……。
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