第56話 カスーチャ領

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第56話 カスーチャ領

「隊長!」 どうした。 こそこそこそ。 「わかった、ここを頼むぞ」 火事の後始末をしていた中をアロー叔父さんがやってきました。 「アイジュ、チサ、よく来た」 叔父さんに抱き着きました。ここまで馬車で三日かかりました。 手紙は見せてもらったという、よかった。 私たちの思った通り、火攻めは兵士になったばかりの人たちが困惑する状況となってしまった。でもこの領地の兵士たちのおかげで、混乱することなく対処できた。 それでどうした。 実は、昨日、昼過ぎに二通の手紙が届いた。 一通は姫様からお礼の手紙、もう一通は、ここ、カス―チャ領主様。 「そうか」 「長老はどうするか叔父さんと話せと、俺たちを送ったんだ」 「子供だから怪しまれないでこれたよ」 内容は。 助けてほしい。それも領主連合にだ。 「そうか、長老は動いてないんだな」 うん。 「チサ、お前が来たということは何か考えがあってきたな」 うん。おっちゃん、地図。 「アロー、アローは戻ってきたか」 そこに領主さまがいらっしゃいました。アフガンハウンドのようなイケ叔父です。もう、なんでいい男ばっかり。 手紙を見せると、おくってきた私たちを見て驚かれました。たった二人、それも子供です。アロー叔父さんは甥っ子だと紹介してくれました。領主様はエルドレッドというお名前です。 「地図だ」 「隣のナストール国、領主さまを殺してまで、なにがほしいと思う?」と尋ねました。 「おい、この子供たちは」 こいつらなら大丈夫ですから。 「今はまだ、国といいたいが、民族がな」 「僕も叔父さんと同意見、じゃあ、王様が独断じゃなく、誰かと手を組んでいるとしたら、どう思う?」 「手を組むだと?…」 まさか?といった領主さま。 「それに領主連合も当てにならないよ」 「どういうことだ?」 「バース領、王妃は廃位になるかもよ」 「廃位だと!」 私は爺ちゃんたちに話したように地図を指します。 「なにが目的だと思いますか?」 目的か…。 話せないか…。 「伯父さん、今回この領土へ来るため、王様に兵士を頼みましたが断られましたね」 「断られた、そういうことになるのかな?」 「そうじゃないのですか?集められた兵士志願者は、兵士ではありませんよね」 んー、と頭をかいた。 実は、教会の兄ちゃんたちが、数人ここへきていることを話した。 「それがどうした?」 気になったことがあったんだ、私は領主さまのほうを見ながら。 「ラグラダ王は、正アルリア教の信者じゃないかなって、だから、兵士ではなく、教会の孤児たちに声をかけた、王様直々ではなく、宰相様を使ってね」 どういうことだ! あり得ん!という。調べればわかると思う。狙いは王様の廃位で王の立場に立つのはだれか? 「もしも、そうならば、教会同士の争いごとになっても知らないと言えるからです。ただ、これは憶測です。でも、教会関係者は、喜んで彼らを送り出した。国の機関ですからね、死ぬなんてことは、考えていませんよ。王様からであれば、頭の良い枢機卿様は、待ったをかけたかもしれないけど、信頼のある宰相様からであればそれはうなずける。後付けで王様からの命令だと付け加えればいい。戦争はしない主義だと王様は言っておられると聞いていますからね」 私はちゃんと聞いてきた、枢機卿様は、だまされていたとはと言って、頭を抱えていたもの。 「くそったれが!」 「ちょっと待ってくれ、教会同士の争いだと?」 私は、地図をなぞりました。 「後押ししているのは、正アルリア教会」 「なんでまた?」 「ハレス教会をつぶすためですよ、王様にしてみれば、目の上のたん瘤のように思っているのでしょう、王はアルリア教会に使われているのをわかってしていると思います」 領主は目を丸くした。 「王が・・・あり得ん」 「私は王様をよく存じ上げません、一度お目にかかっただけです。ただ、いろんな人から聞くと、王様は、自分が王として全うできればそれでいいと思っている方です。自分が生きている間は安泰で、なにごともなく、ただ風に漂うように、一生を全うできればいい、違いますか?」 「クー、そうだと言いたくないが、その通りだ」 「かといって、宗教にのめり込んでいるわけでもないのです」 まあそうかもな、あいつが、教会へ行っていのっているところなど見たことがない。 お聞きしますが、先祖のどなたかが、この宗教に入っていらっしゃったのでしょうか? そうじゃないのだ、アルリア公国の中に、わが先祖の墓がある。それだけだ、私の叔父は、しがらみに左右されないために、そこへ墓を置かなかった。 そういうことか、日本人が墓を置くため、わけもわからぬまま、勝手に宗派に入っているのと同じか。 「洗脳されちゃったかな?」 どういうことだ? 簡単なこと、お墓がある、先祖を大事にしろって、勧誘されたんです、だから興味がなくても。 あいつは本当に無関心なんだ。 「それ、本当にそうでしょうか?」 え?  自分がやりたいのに、周りのものがそれを取ってしまったら、どう思います? 「あー、なんだよーってなる」とおお兄ちゃん。 「でしょ?王様だもん、それは私がいたしますって言うのが続いてみ―。誰かがしてくれる、私なんかしなくても誰かがしてくれる。ほっといてもいいってなっちゃうだろ、それで国がうまく機能していれば」 アー、と領主さまは顔を隠して膝から崩れ落ちてしまった。 「もっと王様を頼ればいいんだ、もっと王様をうまく使えばいいのに、ずーっとそれで来てるんだもん、やる気、なくすよね」 「はー、そういうことか、悪いのは我々おつきのものってことか」 「それだけじゃないかもしれないけどね」 それだけじゃないとは? 王妃の関係者。 ああ、そっちか。と言ったアロー叔父さんはやっぱり何かわかっているな。 「どうすればよい」 「んー、今からできるかなー」 どうすればよい。 「そうだなー、あー、へへへいいこと思いついた」 私はそれを話しました。 はあ? 三人は突拍子のない声を出したそうです。 そこには王都から駆け付けた姫様にも参加していただきました。 「え?そんなことをするのですか?」 「はい、それで、王様がお留守の間、王様のお仕事を姫様にお願いしたいのですが」 「わたくしが?」 「ええ、王様の大事なものはお渡しいたします、姫様がこの国の王を務めてください」 「ですが兄上が」 「お兄様にもそれなりのお仕事をお渡しします、今までのようにはいかないくらい大変なものをです」 「でも、そんなことをして父上が帰らなかったら?」 「その時は、姫様がそのまま王様になればいい」 「チサ様、そんな?」 「君ならできるよ、下の人をうまく使えばいい」 「できるかなー」 「ほら、もう王様のことは考えてない」 「そんなことはありませんわ、でも本当に大丈夫ですの?」 「そこは任せておきなさい」 「伯父様、わかりました、お願いいたします」 私はもう一人をつついた。 アロー叔父さんだ。 「わかってたんだよね?」 「なにをだ?」 「王妃とその父親」 「なんの事かな?」 しらばっくれなくてもいい。姫様からの話だと、王様とお妃さまの間は冷めきっている。 そこに若い男だ。 父親はそれに辞めろ言うこともなく、領主たちにはいい顔をして、その地位を守ろうとしているのがうかがえる。 だがそれが、自分の利益なのか、はたまた、違うところなのかが知りたい、叔父さん力を貸してほしい。 ため息をついた叔父さんはちらりと姫様を見た。 「廃位になる覚悟はある?」 私は姫様に尋ねました。 母親の断罪になるかもしれない覚悟です。 顔を上げまっすぐに私を見た姫様。 「民のためでしたら」 叔父である、エルドレッド公は彼女を抱きしめた。 彼女の強い決断だった。
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