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助っ人、三条愛美
翌朝、マネージャ硯山達護郎からメールが入った。
『現在着手中の案件に三条さんを加えますので、ミーティングのため事務所に出社してください』
先野は憮然とする。確かにまだこれといった足取りをつかめているわけではないが、捜索は始まったばかりなのだから、もう少し一人で任せてくれてもよさそうなのに、手がかりが乏しく先野だけでは荷が重いと判断されたのかもしれなかった。
事務所に出ると、今回助っ人として捜索に参加する三条愛美はすでに来ていた。
いつもながら個性的なファッションの硯山マネージャは、腰を左右に振りながら、三条と先野を従えて事務所の端に作られた会議スペースに向かう。たった三人では広すぎるテーブルの椅子にそれぞれついた。ブラインドの影が天板に落ちていた。
「先野さんは不本意かもしれないけど、なんとしてでも債務を回収したいという金融部門からの要請があってね──」
と、紫の口紅を塗った口でマネージャはそう言った。
「それで増援することにしたのよ」
二十七歳の三条愛美は新・土井エージェントのエースだった。常に何件かの依頼を抱えていて、それでいてきちんとこなしていく。いわゆる名探偵である。だからといって、ガツガツと仕事に命をかけていますといったキャリアウーマンな態度を見せない。しかも容姿端麗。本人は謙遜しているが、ここまで非の打ち所がないと、言い寄ろうとする男性もたじろいでしまう──のせいか、交際中の異性はいない、とのこと。もっとも本人は仕事にやりがいを感じていて、それでじゅうぶん充実していた。
三条を交えたところで、マネージャは改めて依頼内容を説明した。
「そうまでして回収したい債務って、どれぐらいなんですか?」
説明を聞き終えて、三条は訊いた。
「それが……二千万円なの……」
「そんなにも高額ですと、保証人や担保がしっかりしているでしょうに……」
やはり先野同様、三条も呆れる。
「うーん……」
マネージャは困った表情。焦げ付いたときの保険が正常に働かないなどとは、調査が杜撰だったのか。それとも偽物の登記書類でも提示されて騙されたのか。いくら審査を厳しくしても詐欺師のほうが一枚上手というのはあり得た。警察に被害届を提出できないというのなら、こちらの手落ちなのかもしれない。
だがいずれにせよ、
「借金の額の多寡がわかったところで、債務者の居場所がわかるわけでもあるまい」
先野は開き直るように言った。
「じゃあ、先野さん。これまで調べてわかったことを三条さんに説明してあげてちょうだい」
「ああ、そうだな……。たったの一日なのでさほど進展はないが……」
システム手帳を開き、先野は聞き込みで知り得た事柄を話した。
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