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ターゲットの足取り
三条愛美はアパートの管理会社に電話をかけた。普通に電話して根掘り葉掘り尋ねても教えてくれるわけはなかった。
「あのぅ……、わたし、「ドミールサンシャイン」に部屋を借りている約野哲河の姪なんですけど……叔父のことで……」
と、親類を装った。
すると、すぐに反応があった。
『あ、103号室の約野さん……二ヶ月、家賃を滞納されていますよね……。今月滞納されると退去していただかなくてはならないんですが、連絡がつかなくて困っていたところなんです』
尋ねてもいないのに、そんなことを言った。
「二ヶ月滞納……」
『十年以上ご契約いただいているので、督促状を持って直接うかがったのですが、孤独死していたわけでもありませんでしたので、そこはほっとしているのです。ですが……』
電話をかけた三条の話は聞かずに一方的にしゃべっているのは切羽詰まっている証だろう。上司からなんとかしろと言われているのかもしれない。
『保証人はお母様なのですが、すでに亡くなっていたというのが調査で判明しました。わたくしどもとしましても、このままではいけませんし……』
「連絡がつかないって……もしこのままですとどうなるんです?」
『部屋を空けさせてもらいます。その際、家財道具はすべて処分させていただくということになります。契約書にもそうあります。ですので、そうならないよう家賃をお支払いしていただきたいですね……』
暗に肩代わりしてくれたら助かる、と言っているようだった。そのほうが部屋を空けるより楽だから、そう要求するのはわからないでもない。
(しかし家賃が払えないとはどういうことなのだろう……?)
約野哲河になにがあったのか。二千万円もの借金をしてそれをなにに使ったのか。どうして返せなくなって夜逃げしたのか。
二ヶ月前まではきちんと家賃を払っていた。新・土井ローンから借金をしたのが半年前。このタイムラグはどう捕らえればよいのか、三条は考えるも材料がなさすぎて推測もできない。
「そうなんですか……。実はわたしも叔父との連絡がつかなくて。法事のことで話したかったので……それで、アパートの管理会社ならなにかわかるかとお電話したのですが……」
三条は通話を切り上げにかかった。
『ああ、そうでしたか……。今月の家賃の振込期限の月末までお待ちしますが、それをすぎたら部屋を明け渡していただきますので、連絡がつきましたらそのことをお伝えください』
「はい、わたしもあちこち当たってさがしてみます。どうも失礼します」
通話を切った。
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