助っ人、三条愛美

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「調査部門を信じていますよ」  なにを白々しい……と三条は思っても口には出さない。私立探偵などいかがわしい商売だと思っているのが伝わってくる。金貸しも、ある意味いかがわしいともいえるのに。 「先野さん、行きましょう」 「もういいのかい?」  はい、とうなずく三条は立ち上がる。 「調査を始めます」  つられるように先野も立ち上がった。 「三条さんがこれで満足なら、おれからはなにも言うことはないよ」 「失礼します」  三条は後藤に一礼して、会議室を出ようとした。 「大いに期待していますよ」  背後から声をかける後藤を振り返ることもなく、三条はその場を辞した。  「なにも情報が得られなかったな……」  ビルを出て、駅に向かいがてら先野はそう漏らした。 「不審な点が多いです」 「同感だ。だが……担当者の話が事実だとすると……」 「…………」 「おれは、金融部門は何者かに嵌められたんじゃないかと思う。外国からのハッカー集団によってコンピューターが侵入を受けてお金を奪われた……とか」 「それならわたしたちに約野さんをさがしてほしい、なんて依頼は来ませんよ」 「その約野哲河さんも嵌められたのかもしれん。犯罪の片棒を担がされた……というかダシに使われた……。例えば、個人情報を盗まれて口座を利用されたとか……」 「そうでしょうか……」 「もちろん確信はないし、金融部門もまだ事実をつかめていないのだろう。ま、どちらにせよ、こんな肩透かしならおれがここへついていくこともなかったんじゃないか」 「女のわたしだけが行っても軽くあしらわれてしまっていたでしょう。先野さんがいてくれたから後藤さんも渋々ながら対応してくれました」  いかつい顔の先野が黙って立っているだけで相手に威圧感を与えられるとの計算である。職質の回数は新・土井エージェントで群を抜いているほどで、先野自身それを自覚せざるを得ない。  が、 (虎の威を借る狐か……)  とは、さすがに口には出さず、 「いや、三条さんもなかなか迫力あったよ。あんな威勢よく迫られたら、たいがい怯むだろうさ。たいしたもんだよ」  三条は不意に立ち止まる。深呼吸するように大きく息をついた。 「どうした?」 「先野さん、さっきのは演技ですからね。あれが本来だなんて思わないでください。あれはあくまで職務上の交渉での態度なんですから」 「わかってるよ、そんな念を押さなくても」 「なら……いいです。行きましょう」  三条は再び歩き出す。 「先野さんはこのあとどうします?」 「おれは……そうだな……オートレース場へ行ってみようと思う。なにか知っている人がいるかもしれん」 「そうですか……ではわたしはアパート関係を調べてみます」
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