ターゲットの足取り

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 見上げる三階建てのビルはなんとなく辛気臭い建物だった。長年の風雨にさらされて薄汚れているが、それを取り繕うような予算がないのかもしれない。  松午警察署。アパートから一番近いここに、三条はやってきていた。市内の警察でわかるかどうか一応は確認しておこうと思ったのだ。  先野から、約野が公営ギャンブル場に入り浸っているというのは聞いていた。借金があり家賃まで滞納している……そんな刹那的かつ破滅的な生き方をする人間の末路といえば、もう自殺しかない。約野がすでに死んでいる可能性があるとみた。  警察署の受付で目的を告げ、出された書類に書き込む。  行旅死亡人とは、昔でいう行き倒れの人のことである。身元不明の死亡者で、かつ殺人が疑われない者は、リストが作られ警察署に保管される。  性別や年齢、おおよその身体的特徴はネットで公開されても、顔写真まではわからない。なので、心当たりがあれば警察署で確認することになる。  バインダーに閉じられたファイルを出してきたのは、中年の男性職員だった。お巡りさん――いわゆる巡査の服装ではないが、一般の人と区別のつく制服を着ている。  三条を署内の会議室の一つに通すと、脇にかかえていたバインダーファイルを会議テーブルの上に置き、 「どんな人ですか、写真はありますか?」  と、訊いてきた。 「あの……調べるのはわたしがやりますが……」 「遺体の写真のなかにはかなり状態の悪いものもあります。気分が悪くなるでしょうから、できればわたくしが調べます……」 「え、でも……」 「わたくしは慣れていますので、平気です」 「わかりました……。お任せします」  ここは言うとおりにしよう、と思った。三条自身約野哲河と直接会ったことはないのだから職員がやっても同じだろうし、一般人らしく振る舞ったほうがいいと判断し、スマホの写真を見せた。  職員は約野の写真をじっと見つめ、 「わかりました。少しでも特徴が似ている人が見つかったなら、確認をお願いします」  言うなり、作業を始めた。  三条は同じ部屋で静かに待つことにした。会議室にページをくる音だけがした。  ドアの外側で大人の大きな声。酔っ払いでも保護されたのだろうか。それとも凶悪犯が逮捕されたのか──。  時間が過ぎた。  が、結果、それらしき人物は見つからなかった。  職員はファイルを閉じ、 「他県の警察署に行けば、その管轄内で見つかった別の行旅死亡人のリストがありますが……」
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