リターン二回目

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リターン二回目

 オートレースのトラックの南側だけに建てられている、築四十年はたっていそうな薄汚れたスタンドの端から端まで移動してさがしてみたが、約野哲河らしき人物はいなかった。もっとも、レースの合間にじっとしている人はいない。車券を買い求めに行ったりトイレに立ったりして見逃している人間もいるだろう。  先野とてそう簡単に見つかるとは考えていない。今日この日にここへ来ているとは限らないし、そもそもそんな確率は低い。  先野は聞き込みができそうな人をさがした。といっても、そこらへんの客にやたらと訊いたところで約野を知っているという人間には当たるまい。  車券の取り扱い窓口に行ってみた。車券を購入したり払戻金を受け取ったりする人がいなくなったタイミングを見計らって窓口に取り付いた。車券の購入精算は機械化されておらず、 「はい、いらっしゃいませ」  アクリルで隔てられた窓口の向こう側に座っているのは、かなり高齢の化粧の濃い女性スタッフだ。年金収入だけでは足りなくて、ここでアルバイトしているのかもしれない。レースは毎日ここで開催されるわけではないから、働き方としてはちょうどいいかもしれない。  先野はスマホの写真を見せ、 「この人を見たことはないですか?」  よく見えるように手を伸ばした。  女性スタッフはスマホに顔を近づけると、 「おやまぁ! ラッキーボーイじゃないの!」 「ラッキーボーイ?」  約野はもうボーイという歳ではないが、この女性からするとボーイでもおかしくないのだろう。 「そうよ。この人、よく大穴を当てるのよ。だから職場仲間(わたしたち)の間ではラッキーボーイと言われているの」 「どんな人ですか?」 「名前までは知らないわ。でも、『こんなに儲けてどうするの? 外車でも買うの?』と訊いたら、貧乏なのでそんなものは買わないって言うのよ。へんよね、宿無しでネットカフェを泊まり歩いているって、どんな生活してるのかしら」  おしゃべり好きのようだ。普段、会話をしたくとも、ここに来る男性はそんなにしゃべり好きではないのだろう。だから聞かれもしないことでもするすると口から出るようだ。 「レースが開催されている何日かの間、競馬場の近く、競艇場の近く、ボートレース場の近くのネットカフェで過ごしているそうよ。今日は、まだ大穴が出てないけど、出たら払い戻しにやってくるかもね」 「そんなによく当てるんですか」 「そう! もう神がかり的に。ピンポイントでそれだけ買って当てるんだから」  イカサマができるわけでもなく、そんなに連続して大穴ばかり当てられるなんて。すべての車券を買えば当たるだろうが、それではすぐに金が底をつくし、そんなバカな買い方なんかするわけがない。
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