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「系列……っていうと……」
グループ会社の「新・土井ローン」しか思い浮かばない。興信所の他に金融会社も経営しているというのは社員なら聞き及んでいた。
そう、債務者が行方不明になったっていうのよ――と、硯山マネージャは説明する。
「で、その捜索をか……」
その手の仕事が入ってくることがあるとは聞いたことがあった。ただ、ベテランとはいっても中途入社の先野が受け持つのは今回が初めてだった。
一般客からの依頼とは違い、すべての資料はあらかじめ揃えられてからもらうため面談でのヒアリングはない。通常は事務所に併設されている、パーテーションで区切られた面談ブースで依頼者から案件内容を担当探偵が直接聞く。要領を得ない依頼者の話から手がかりを探っていく必要があるからだ。しかし系列金融会社からの捜索人依頼となると、必要な個人情報はすべて提供されるので、わざわざ面談する必要はない。
だが先野は、そんなシステマティックなやり方には疑問だった。債務者と会ったことのある担当者から、資料には出てこない人となりやちょっとした事柄を聞けば、案外手がかりが得られたりするものなのだと考えていた。かといって我を通すほど愚かではなかった。受け取った資料だけでなんとかせよというのなら、なんとかしようじゃないかというプロ意識は持っていた。
「わかった、引き受けよう……」
静かにそう言う先野に、むろん選択の余地などないのであるが……。
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