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(データ分析でもしているのか……?)
競馬や宝くじと違って人間が勝負しているのだから、ある程度の優劣は固定されるだろう。だからこそ大穴が出にくいといえよう。それを当てるというのは八百長でもしていない限りほぼ不可能だ。
実に不可解ではあったが、いまはそれは考えまい。聞いた話をメモに残しておいて、情報のひとつとしてあとで社内クラウドにアップする。
「わかりました。なんとか彼に会って、幸運を分けてもらうとしよう」
窓口を離れようとした先野に、
「ねえ、お兄さんは車券買わないの?」
「また今度な」
言い残し、背中を向けて去る。
オートレース場をさがしまわったが、約野哲河を見つけることはできなかった。今日はここには来ていないのだろう。
(次に行くべきところは――)
ネットカフェだ。少ない手がかりではあったが、なんとか手繰り寄せていき、徐々に近づいているという実感があった。
スマホで市内のネットカフェの場所を確認した。全部で六ケ所……。一つ一つ当たってみるしかない。
確率は六分の一。さほど悪くはない。今日どこに泊まるのかは予測がつかない。ここで当たりを引くのはそれこそ運だ。
だから適当に決めた、国道沿いにあるネットカフェに行ってみた。原付きバイクを駐車場のすみの二輪用のスペースに駐め、店内に入る。時刻はもう六時をすぎていた。公営ギャンブルは夜まで行われているところもあるが、約野は早めに切り上げているかもしれない。
受付をすませ、まるで迷路のようにパーテーションで区切られた薄暗い通路を進む。
指定された番号のブースへは行かずにドリンクバーのコーナーに。フリードリンク付きなので利用者は必ずここへ立ち寄る。約野も来るはずだと踏んでそこで待つことにした。不審がる人はいない。いたとしてもわざわざ声をかけてはこないだろう。
せっかくなのでなにか飲むかといえば、それはしない。じっと待つのみ。刑事の張り込みと同じだ、我慢強さが要る。
誰かがドリンクバーに来るたびにその顔をちらりと確認した。若者が多いかと思えば、そうでもなかった。中高年の割合が高いのは、彼らが不景気のまま人生を送ってきたせいなのだろうか。いや、宿なしの人ばかりではないだろうし。
二十四時間営業で、先野の利用は夜十時までにしていた。もし約野がここを利用するなら、そんなにねばる必要もないだろう。他のネットカフェに行っているかもしれないし、となると、いつまでもドリンクバーで待ってはいられない……。数時間にとどめることにした。
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