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四十代の男性依頼者は、最近の妻の様子にどこか違和感を覚えていた。パート勤務である三十代の妻は近所のスーパーで働いているはずだった。パートであるから労働時間は融通がきく。フルタイムで働く夫の目が届かないところで、妻が誰と逢っているのか。マッチングアプリで知り合って結婚したが、その付き合いには双方ともメリットを天秤にかけての合意であり、どこかしら妥協点があり、それゆえ埋められない部分を他人に求めてしまうところがあるのかもしれなかった。
それでも法的に結婚しているのだから、独身時代のような自由奔放な生き方はすべきではない。そう夫は考えていた。
この夫婦のあり方はどうあれ、三条は真実を知るために調査を開始した。妻を尾行し、浮気現場を押さえるいつものやり方で。
先野のサブとして動いていた間中断していた、妻の職場の小規模スーパーを張り込みするのは今日で三回目だった。逢瀬をするなら、夫が働いている昼間だろうと見当をつけ、正午前からスーパーを見張っている。午前の勤務だけで終わらせて早退し、浮気相手と昼食ついでに密会し……と、その行動を予測していた。
だがまだ尻尾を出していない。今日こそは……とスーパーの駐車場に駐めた社用車のなかからじっと監視している。
と――
(来た!)
妻がスーパーから出てきた。派手に着飾ってはいないが、小綺麗な格好で垢抜けている。
クルマの運転席から目で追っていくと、ちょうど駐車場に入ってきたばかりの青いスポーツカーに乗り込んだ。運転しているのは、依頼者である夫よりも若そうな三十代ぐらいの男性だ。
(よし……)
三条は、隣の駐車スペースの軽自動車に指で合図を送る。サブとしてこの案件に加わっている同僚探偵である。
尾行は複数で行う。同じ人間やクルマがずっと後をつけていると不審がられてしまうからだ。今回、二台のクルマで尾行する手筈なのである。GPSで互いの位置を把握しながら、入れ替わりつつ追跡するのだ。
駐車場を出ていくスポーツカーのあとをつける。
ところが――。
いくらも走っていないのに、スポーツカーはコンビニの駐車場に入っていった。国道沿いのコンビニの駐車場は広々としていて、トラックが一台駐まっているだけだ。
三条もやむなく駐車場へと入る。端っこのほうのスペースで停止。
すると、スポーツカーから降りた妻と浮気相手は、二人して三条の社用車に近づいてくる。明らかにこちらに用がるのが見て取れる。
(まずい……!)
三条はすべてを察した――尾行が完全にバレている。そんなバカな、と思いつつ、ギアをバックに切り替え、発進。切り返して駐車場を出た。
別のクルマで尾行していた探偵にハンズフリーで電話する。
「尾行がバレました。今日の調査はいったん中止します。会社に戻ります」
失態であった。
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