手がかりの少ない捜索人

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(しかしこいつは厄介だぞ……)  会社組織が相手だと、正面からのアポイントでは相手にされない。軽くあしらわれてしまうのがオチである。 (しかたない……)   先野は近所を回って、約野が立ち寄りそうな場所へと出向くことにした。手がかりは、借入の際に提出されたというマイナンバーカードの写真のコピーだけである。  スマートフォンで地図を確認。周囲に存在する主な施設を表示した。コンビニ、スーパー、ファミレス、居酒屋、スナック、パチンコ店、和菓子屋、ケーキ屋、喫茶店、図書館、スポーツジム、クルマのディーラー……。  約野の趣味がわからないから、どこに頻繁に立ち寄っているのか見当がつかない。せめて行動パターンの傾向ぐらい把握していないと、ひとつひとつ訪ねて回っていては効率が悪い。借金の理由でもはっきりすれば少しは絞りやすくなるのかもしれないが、それはわからなかった。  そうなのだ──。約野はなぜ借金を負っているのだろう。なににお金を使ったのか。ただの浪費?  そうではない気がした。なにかしら避けられない理由があって大金が必要になった……。  なんの確証もないが、先野はそう直感した。  マイナンバーのおとなしそうな写真を見る限り、なんとなくそんな印象を持った。人の見た目というのは、おおよそその人そのものを表しているのだと先野は思っている。見た目によらないというのは、どちらかというと例外的だ。賭博で首が回らなくなった、というのはなさそうだと思った。  だが、それらは直感であってウラがとれているわけではないし、たとえ的外れではなかったとしても手がかりにはなり得ない。 (せめて交友関係がつかめればな……)  そう嘆いても、そんな情報は金融部門からは提供されない。手持ちの手札で闘うしかないのだ。  客との接点が高そうな理容店、美容院、診療所などを当たってみることにした。原付きバイクは小回りがきくのがよかった。  しかしどこへ行っても結果は成果なしであった。約野の名前を告げても写真を見せても誰からも反応がなかった。  もっと接点の高そうな居酒屋やスナックはまだ開店していない時刻だから、そこは夜になるまで待たなければならない。それまでの間、図書館や喫茶店、スポーツジムを順に当たった。しかしここも約野を見たことがあると答えた人は皆無だった。見たことはあっても記憶に残っていないのだろう。コンビニやスーパーなど、日常的に利用する施設は他にもあったが、客とのコミュニケーションが低いからなんらかの情報を得られそうにはない。
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