君の名は

2/7
前へ
/109ページ
次へ
仕事を終えて、更衣室で私服に着替えていると、先輩の飯島さんが声をかけてきた。 「環ちゃん、暇だよね?」 「そんな決めつけるみたいに言わないでくださいよ」 「ごめん、ごめん。でも何も予定ないでしょ?」 「ないです」 「ご飯奢ってあげる」 「嬉しいですけど、何か裏がありますよね?」 「やだ! 善意よ、善意!」 「前もそう言って、合コンに連れて行きましたよね?」 「そうだったっけぇ? 記憶になーい」 「そうなんですね」 「何?」 「行きません」 「そこに座っててくれるだけでいいの! なーんにも話さなくていい! 何なら話しかけられても無視でいい! だからお願い! ね? 今日は全部、奢りだから」 「奢りって……どことなんですか?」 「お医者さんとそのお友達。4対4なんだけど、来る予定だった子が熱出して急に来れなくなったのよ。それで人数が足らなくなったの」 「4対3でいいんじゃないですか?」 「ダメよぉ」 「だったら他の人を誘ったらいいのに。彼氏欲しい子いると思いますよ?」 「環ちゃんがいいの!」 飯島さんは、美人で、優しくて、尊敬する先輩で、わたしの過去を知っても態度が変わらないでいてくれる人。 そんな飯島さんに笑顔でじっと見つめられて、渋々了承した。 「本当に話しませんよ?」 「ずっと食べてるだけでいいから!」
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

97人が本棚に入れています
本棚に追加