青春16”青切符”

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 高校1年生の満井まどかは、昼休みにスマホのニュースをみながら憤っていた。  2026年までに、父達の自動車運転と同じような「青切符」と呼ばれる罰則規定が、16歳以上は自転車の運転にも適応するらしい。  「高校生から12,000円もとるの?」 自分にはかなりの大金である。  特にまどかは通学中、大好きな推しの音楽をランダムでイヤホンで聴きながら自転車を漕ぐのが朝晩の幸せな時間だった。それが近いうちに罰金対象になるとは…。  一体、この行き場のない怒りをどうすれば発散できるのだろう?  この制服と全く合わないデザインのヘルメットの着用すら屈辱なのに、さらに推しの音楽のBGM通勤時間に罰金が科されるなんて!  仲の良い同じクラスの陽菜にこの怒りを分かって欲しくて、この話題をふったが意外にも陽菜は、 「いいんじゃない?スマホ見ながら運転してる人とぶつかりそうになって、結構事故りそうになるよ。」  え…?そんな返しは求めていない…陽菜だけは分かってくれると思ってたのに。  あまりの悔しさに、SNSのこのニュースの件で反対の意見を書き込んだら、知らない人からの膨大な書き込みで炎上してしまった。    即タイムラインから削除し、しつこい奴はブロックした。 「何故みんな分かってくれないの…?」  ネットの友達も、リアルな友達も双方から悩みを理解されないことは初めてで、まどかは戸惑っていた。  こうなったら「青切符」とやらが始まるまで、存分堪能するしかない。 その日からいつもより音量高めで、まどかは自転車を滑走させるようになった。 「推しと私の時間を奪われてたまるか!」  ある日、午後から天気予報が雨だったので、まどかはいつも通りイヤホンを装着し、お気に入りの長傘をハンドルの中央部分にぶら下げたまま、かなりの音量で学校への道を急いでいた。  そのときである。まどかには一瞬何が起こったか分からなかった。  傘を自転車の前輪に巻き込んだため、前輪が急ブレーキを起こし、まどかは柔道の「巴投げ」をくらったようにふわりと宙を舞い、「ドスっ」と鈍い音と共にアスファルトに背中から思い切りぶつけた。  まどかは痛みで全く声すら出せず、意識もうっすらしかなかった。  かすかな視界に入って来たのは、大好きだった傘が原型を留めない曲がり方をして道に転がっていたのと、近くに転がってたスマホも画面がバキバキになっていた。ヘルメットのおかげで頭は全く怪我してなかった。  近所の人が物音で驚き外に出てきて、まどかを発見し119番通報してくれた。うっすらとした意識の中、まどかは近くの救急病院へ搬送された。  レントゲンとCT検査では幸い骨折や脳へのダメージなどの大きな怪我は見つからなかったが、背中はやはり痛く、擦過傷の治療と痛み止め薬が処方された。  意識がはっきりしたころには警察と親が来ており、ただでさえ痛い状態の中、傘さし運転やイヤフォンでの音楽を聴きながらの運転について、警察から淡々とお叱りの言葉を頂いた。  なるほどこれで目の前に車や人が居たかと思うと、確かにゾッとする。 確実にはねられたか、誰かを怪我させていた。  警察から自転車運転の「青切符」の違反項目についての一覧のビラを渡された。 「今度から自転車でも違反になる項目だから、見ておいてくださいね。」  病院にかけつけた母は、 「まったく…交通事故で救急搬送だなんて心配したわよ。警察の方から状況を全部聞いたけど、今回は完全にまどかが悪い。自転車の修理費もスマホ代もお年玉から自分で出しなさいよ。」 と、優しくしてくれるかと思いきや、怒りの言葉をぶつけられた。 「嘘でしょ…?こんな怪我人の娘にお金まで出せと…?」 自転車の修理費、スマホ代、傘代を合わせたらかなりの貯金が吹き飛ぶ。  背中の怪我の具合を鏡で見ながら、「こんなことなら、もっと早く青切符始まってて欲しかった」と後悔していた。 推しとの時間が減るのは残念だが、こんな目に合うのは懲り懲りだ。  16歳のまどかは、今後は交通ルールを守ることを心に誓った。    
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